眠れる敵を起こすな――。

 工藤監督がソフトバンクの前身・ダイエーのエースとしてリーグ制覇を果たした1999年。日本シリーズでの戦いを前に、工藤は「ちょうど、見に行く時間があったんだよね」と、横浜スタジアムの左翼席で横浜(現DeNA)対中日の試合を観戦したのだという。そこで見たのは、中日の1番打者・関川浩一(現ソフトバンク3軍監督)のシュアな打撃。「彼を抑えないと勝てないと思った」。第1戦先発の工藤が変化球攻めでタイミングを狂わせて“種”をまくと、関川は初戦から19打席連続無安打。最大のキーマンを“逆シリーズ男”にさせ、ダイエーは4勝1敗で福岡への本拠移転後では初の日本一に輝いた。その教訓が19年後の今も脈々と受け継がれていることは、指揮官がファイナルステージを前にして語った“西武打線対策”に見て取れる。

「100、封じるのは難しい。調子がいい、悪い、乗ってくる、こない。戦っていく中でそれを見つけていく。対戦成績がいい、悪い、打点を挙げている、出塁している。それをどう防ぐか。そういう意味での準備をするようには、しっかりと伝えています」

 ソフトバンクにとって、2位からのステージ突破、初の“下克上”まであと1勝に迫った。「とにかく、自分たちの野球をして、モノにするんだ、勝つんだという気持ち」という工藤、そして甲斐ももう少しの間だけ獅子を眠ったままにさせておくつもりのようだ。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。