「この試合は大事だという、その気持ちを確かめて、臨んでくれたのは間違いない。でも、結果が出ないときがある。気持ちを盛り上げて、気合を入れても、裏目に出ることがあるのが野球。ただ、そういう思いを持ってやってもらうことが大事。どこにも負けない強い気持ちを持ってもらって、その中で戦っていくことなんです」

 工藤公康監督は西武とのファイナルステージに挑むにあたり、レギュラーシーズンでの屈辱を晴らすというリベンジへの強い思いを持ちながら、勝利という大目標を達成するための冷静さという、その両面を選手たちに求めた。さらに「西武は打って、打って、勝ってきたチーム。それに対して、投手が勇気を持ってしっかり投げ込めるか。それが重要なカギになる」とバッテリーへの“テーマ”も示していた。

「前半をまず抑えて、自分たちのペースで野球をやる。点を取られたら、どうしても後手に回る。だから、まずは点を与えない」

 今ステージでの4試合で西武に先制を許したのは、敗れた第2戦のみ。勝った3試合の序盤3イニングでの失点は4。指揮官の展望通りに試合を進めているのは、そのデータからもはっきりと見えてくる。

 第4戦の先発・東浜巨も、中4日のマウンドながら4回2失点とゲームを作り、早めにリリーフ陣につないだのは短期決戦ゆえの戦略。だから「飛ばしていきました」という東浜は1回からこの日最速の148キロをマークするなど、力で押していった。

「巨さんとも『思い切って勝負をしていこう』と話していました」と甲斐。その言葉通りに、西武相手に4回で7奪三振。3回に木村に2ランを許した後、ここが踏ん張りどころとばかりに、秋山翔吾、源田壮亮、浅村栄斗を3者連続三振に仕留めている。

 さらに2番手・武田翔太が2点リードの6回、無死一、二塁のピンチを招いても、甲斐の強気のリードは変わらない。栗山巧に対しては4球オール直球で攻め、148キロの内角球を引っかけさせての一ゴロ。続く1死二、三塁では、今季28本塁打を放った35歳のベテラン・中村剛也にも「低め。その意識で投げてくれたら」と甲斐は長打警戒の外角攻めを徹底。1球目は137キロの外角スライダー、2球目は148キロの外角ストレートで2ストライクと追い込むと、3球目はストライクゾーンから、やや外し気味の外角低めのゾーンへミットを構えた。打ち気をそらし、打者の動きや目線を確かめ、フィニッシュの球を決める。そのための1球が「ちょっと内に入った」と甲斐。147キロのストレートで見逃しの三球三振に仕留めた。

 さらに2死二、三塁で、7番・岡田雅利に粘られ、カウント3ボール2ストライクまで持ち込まれた。ラストの7球目は139キロの外角スライダー。連続の見逃し三振に斬って取り、最大のピンチを断った。

 打線がダメ押しの4点を奪ったのは、その直後の7回表だった。

「どこでどうなるか、全く分からない打線ですからね。そこは一人ずつ、結果的に抑えていけばいいですから」

 甲斐は、聞けば語ってくれる。しかし、具体的な“肝”の部分は語っているようでぼかしている。戦いは、まだ続く。相手にヒントを与えるような言質を取らせない。報道陣への“リード”も巧みだ。秋山、中村への対策も「しっかりと投げてくれています。それに尽きます」と語るにとどめた。

 レギュラーシーズンで打率.323、24本塁打の1番・秋山をこの4試合を16打数1安打、5三振に抑え込み、ソフトバンクが勝った3試合ではいずれもノーヒット。6番・中村に対しても15打数1安打の7奪三振、本塁打も許していない。見事なまでに西武打線を分断している。

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ソフトバンクが初の下克上へ