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42歳で電撃結婚、翌年には高齢出産。激動2年を経た女優・水野美紀さんが、“母性”ホルモンに振り回され、育児に奮闘する日々を開けっぴろげにつづった連載「余力ゼロで生きてます」。今回は、人から言われる「子供抱えながら仕事して大変だね」という言葉に反論する。
* * *
仕事に復帰して「あれ?」と思ったこと。
それは、仕事がラクに感じるようになっていたことだ。
家にいると、常にチビに目を光らせながら、
「ご飯、何にしよう?」
「食器洗わなきゃ」
「そうだ、ご飯何にしよう?」
「買い物に出なきゃ」
「ひとまず掃除機をかけよう」
「あ、洗濯終わった、洗濯物干さなきゃ」
「お風呂入れなきゃ」
「ワクチンの予約入れなきゃ」
「ああ、携帯チェックしなきゃ」
「セリフを覚えなきゃ」
と、常にてんこ盛りのタスクを背負い込んでいて、自分の睡眠も食事もトイレもままならないのに、撮影の現場では、その背負い込んだタスクをいったん降ろして、自分のことだけ、撮影のことだけ考えればいいのである。何にも考えないでぼーっとできる時間さえあるのだ。
産後初めて撮影の現場に復帰した日(産後2カ月)。
朝7時に迎えの車が来ることになって、私は5時に起きてチビの授乳を済ませて、オムツを替えて、寝かしつけて、支度して、搾乳して、夫にバトンタッチして、バタバタと迎えの車に乗り込んだ。
そして、車が走り出した時に衝撃が走ったのである。
何が衝撃かって、その静けさにである。
ホッと一息ついて流れる景色を眺める。
その贅沢さにである!
産む前には何も特別に感じたことなんてなかったその時間が、「え……! 何この静かな時間! 何このリラックス・タイム! なんて贅沢! なんて癒されるの! ボーッとしていいの? こんな贅沢していいの!?」という、極上の贅沢タイムに感じられたのだ。
この感覚をどう例えたらいいのか、どうすれば伝わるのか分からない。
私はこの衝撃があって初めて気づいた。