最下位になったお詫びに試合後、監督がスタンドのファンに土下座するというビックリ仰天のパフォーマンスが見られたのが、1994年9月29日のロッテvs日本ハム(東京ドーム)

 前年、通算3度目の日本ハム監督に就任した大沢啓二は、西武と激しいデッドヒートを演じ、1ゲーム差の2位と健闘したが、13年ぶりVを狙った翌94年は、西武に28.5ゲーム差の最下位に沈み、引責辞任することになった。

 本拠地最終戦となった9月29日のロッテ戦は11対6と打ち勝ち、何とか有終の美を飾ることができたものの、大沢親分の心は晴れなかった。

「自分は今季限りでチームを出ていくが、ファンに借りがあっては出ていくにも出ていけない」

 そんな心の葛藤にけじめをつけるため、試合終了後、大沢監督はセレモニーの席でマイクを手にしてマウンド付近に立つと、「負ければ監督の責任。親にも頭を下げたことのない私だが、お詫びをしたい」と異例の申し出を行い、その場で一塁側と右翼席の日本ハムファンに向かって、2度にわたって土下座した。

 思いもよらぬ出来事に、スタンドから悲鳴に近いどよめきが起こったが、「そこまでファンのことを思ってくれたのか」と感動を呼んだのも事実。「親分、面白い野球をありがとう。また戻って来いよ」と温かい声援を送るファンもいた。

 しかし、“けじめの土下座”をしたからには、当然次はない。これを最後に、ロッテ時代も含めて足掛け13年に及んだ監督生活にキッパリ終止符を打った。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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