「センバツ、近畿と戦うたびに、ウチも少しずつ力はついとる。でも、大阪桐蔭も力をつけとる。その伸び方に、ちょっとずつ差があったから、大阪桐蔭の方がさらに伸びてたわな。選手も、プロを目指すとか、さらに上を見とるから、さらに伸びるわな」

 選手個々の高い意識。それを引き出している監督・西谷浩一のコミニュケーション力にも注目し「野球日誌とか、やっとるらしいな?」。そうした記事にも目を通し、23歳年下の指揮官に一目置いてきた。

「おめでとう、春より強くなってたな」

 2度目の春夏連覇という偉業を成し遂げた西谷に、高嶋は祝福のメールを送った。甲子園通算68勝で歴代1位の高嶋だが、西谷は同3位となる55勝。「口には出しませんが“彼”はやるでしょう。甲子園に出たら、5つか6つ、勝つもんな。時間の問題でしょうね」。もう“観念”している。

【教え子たちへの思い】

 高嶋の後任となる中谷仁は、1997年(平成9年)の夏初優勝時の主将。阪神ドラフト1位で入団した捕手で、楽天巨人でも活躍。アマ指導の資格を回復後、昨年から智弁和歌山のコーチに就任していた。

「彼が来て、3季連続で甲子園。バッテリーをしっかり指導してくれたからですよ」

 高嶋が高く評価する指導力はもちろん、智弁和歌山の“精神”も知り尽くしている中谷は言う。

「高校時代に見えていた部分と、選手たちの方を向いているときと違う。僕は事務員。でも先生は授業もある。朝、生徒を見守り、練習もやって、夜10時とかになることもある。それを毎日、48年間。普通の考えではやってられない。今も子どもたちに情熱を注いでいる。尊敬できますし、そういう指導者になりたいです」

 教え子たちは、プロに全員が行くわけでもない。大学や社会人で野球を続けられるのも一握りに過ぎない。

高校野球の指導者というのは、みんな一緒のことを思うんです。世の中に出て、堂々と生きていける選手になって欲しい。世の中のルールを守る。そういう要素が野球の中には入っている。会社で上司に怒られても、和歌山の高嶋に比べたら楽なもんじゃ。そう思ってくれたら、高校野球をやった意味もある」

 高嶋の教え子には教師になり、高校野球の指導に携わっている選手が多い。昨夏、甲子園でベスト8に進出した明豊(大分)の監督・川崎絢平は、中谷が3年生だったときの1年生ながらレギュラーを務め、全国制覇を経験した。中谷の同級生・喜多隆志も、慶大からロッテのドラフト1位指名を受け入団。引退後、2011年から智弁和歌山の野球部長を務め、2018年8月から大阪の古豪・興国の監督に就任した。

「甲子園で戦う? ああ、そういうのもあるんやな」

 中谷が、川崎が、喜多が、甲子園のベンチ前で仁王立ちして、対峙する姿を見てみたいのは高嶋だけではないはずだ。

 高嶋の熱き思いは、多くの教え子たちに宿っている。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。