まず、気がかりなのが吉田の疲労である。準決勝は前日が休養日だったが、決勝戦は連投となるため、さらに体調面では不安が残る。同じく連投となった準々決勝では試合前に股関節の痛みを発症しており、決勝戦でも万全を100としたら50程度の状態であることが予想される。ただ救いは吉田がスピードに任せた力投派ではなく、投球術や駆け引きなどにも優れた総合力の高い投手だという点だ。走者を背負っても全く動じることがなく、牽制やフィールディングなどでも自分で自分を助けるプレーを見せている。よほどの疲れがなければ自滅することはないだろう。そして、大阪桐蔭打線は意外にスロースターターだということが吉田にとってはプラス材料だ。ここまでの5試合でも初回は全て0点に終わっている。まずはストレートに頼るのではなく、あらゆる変化球を駆使して的を絞らせずに、一回りは0点で抑えきることが重要になるだろう。

 それでも吉田が大阪桐蔭を最後まで0点に抑え込むことは考えづらい。中盤から終盤にかけて3点程度の失点は喫すると考えておいた方が良いだろう。そうなると金足農打線は最低でも4点以上の得点を目指す必要がある。金足農の攻撃の特徴は、とにかく犠打で走者を進めるところにあり、ここまで5試合で19犠打を記録している。しかし、力で劣るチームが正攻法と呼べる犠打中心の攻撃をしていても、大阪桐蔭の脅威になるとは考えづらい。準々決勝の近江(滋賀)戦では、乾坤一擲のツーランスクイズを決めたが、同じ手が通用するとは思えない。

 そうなると、やはりある程度打って点をとる必要が出てくる。2007年に“がばい旋風”で広陵(広島)を破って優勝を果たした佐賀北(佐賀)も、最後はホームランで逆転しており、ある程度の点数を狙うには長打が必要である。そして、金足農もここまで3本塁打を放っているように、決して長打力が期待できないチームではない。3回戦の横浜(南神奈川)戦では、犠打はわずかに1であり、2本のホームランで逆転勝利を飾っているように攻撃面ではこれまでのスタイルを貫くだけでなく、思い切った強攻策に出ることも必要となるだろう。

 今年の大阪桐蔭は全ポジションにおいてレベルの高い選手が揃っているが、バッテリーの部分で言うと、藤浪晋太郎(阪神)と森友哉(西武)というドラフト1位を揃えた2012年に春夏連覇を果たしたチームに比べると落ちることは間違いない。この年のチームには後に2番手投手にも後にプロ入りする澤田圭佑(オリックス)が控えており、初戦から決勝戦の5試合まで全く危なげない勝ち方で優勝を成し遂げている。今年のチームにも柿木、根尾、横川凱という複数の力のある投手と小泉航平という強肩捕手がいるが、決して“難攻不落”というわけではない。終盤まで吉田が最少失点でこらえ、打線は少ないチャンスで効果的に長打を放つ。そのような戦い方ができれば、奇跡を起こせる可能性もわずかに出てくるのではないだろうか。

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吉田の起用法に不安