ただ、このクセはテレビ用にフィクションでやっているものではなく、本気の本気でやっているもの。僕も身をもって何回もクセの凄みを体験してきたが、忘れられないのが、8年ほど前、岩橋、僕、僕の友人の3人で食事に行き、行きつけの飲食店を3軒ハシゴした時のこと。みんな良い感じにお酒もまわり、3軒目の韓国料理店で少しまじめな話になった。今後の「プラス・マイナス」の方向性、岩橋の芸人としての立ち位置といった内容で、当時、デイリースポーツの記者だった僕なりに思うことを話させてもらった。

「プラス・マイナス」の強みは何と言っても漫才。テレビで売れるだけが正解ではない。劇場を守る芸人になるのも立派な姿。2人にはそこになれるだけのポテンシャルがあると思う。お酒の力もあって、普段しないような真面目な話をさせてもらった。すると、岩橋が涙ぐむような顔つきで、こちらの顔を真剣に見つめ、話終わりに声をかけてきた。「すみません、今の話、もう一回最初からしてもらっていいですか?」。ここにきて“人が真剣に話をしている時に相手の話を聞かない”というクセが出たとこのこと。「なんやそれ!」と心からのツッコミを入れ、3人で大爆笑したことを鮮明に覚えている。

 礼儀知らず。不躾。そういうことと紙一重にもなるが、それでも言葉では表現しにくい“放っておけないかわいらしさ”があり、多くの先輩から可愛がられている。その代表格が「ダウンタウン」の浜田雅功だ。

 初対面で浜田と話している時、この時も、少しまじめな話になった。浜田から「テレビで見ていて思ったけど、お前のあそこのツッコミのトーンは一定やから、もっと緩急をつけた方がエエわ」と非常に実戦的なアドバイスをもらった。大先輩からの有難い話。この上なく、貴重な話。ここでふざけるなんて、ありえない。絶対に。そんな思いが頭を駆けめぐり、気が付いたら、浜田と鼻と鼻がくっつくくらいの距離まで顔を近づけ、あっかんべーをやっていた。

 すぐさま浜田から「何しとんねん!」と言われ「またやってしまった…。何もかも、終わった」と思ったが、直後に聞こえてきたのは浜田の笑い声。そして、優しい顔で「お前、面白いやないか!」と肩を叩かれたという。さらに「いろいろあるかもしれんけど、絶対にやり続けろ。もし、どこかで何か言われたら、オレがやれと言ってるからと言うたらエエから」との言葉ももらった。

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