わが国には、現在、116万平方メートルの地下街がある。そして、それらの60%以上は洪水氾濫の危険のある沖積平野に位置している。大規模に地下空間が利用され、しかも洪水危険地帯に位置する国は、世界中でわが国だけである。ところが、地下街の防災は、火災や地震を想定した法律による規制(建築基準法など)があるだけで、水害に対しては2015年に水防法が改正されるまで見当たらなかった。

 水害を防ぐには地下室や地下街などの防災基準を設定し、自治体の地域防災計画において明確に地下水害を位置づける必要がある。それと同時に、地下室や地下街を利用する人や働く人は、地下水害・水没についての防災意識を向上させることも大切である。地上で大雨警報が発令されているときにはすでに、路上浸水が始まっていることもありうる。そうすると地下空間に浸水する危険性が生まれる。

■豪雨の際は地下街を避けよう

 実際に起こったことだが、2000年の東海豪雨水害に際し、名古屋市営地下鉄の野並駅に約3千人の人びとが避難してきたそうだ。地下にいれば雨に濡れないし、停電せず明るかったというのが避難の理由である。

 このとき、近くの天白川が溢れ、地下にある地下鉄利用者用自転車置き場の斜路の入り口から氾濫水が入ってきた。居合わせた駅員は避難してきた人にどう対処すればよいかわからなかったそうだ。幸い、浸水は線路上1メートルくらいで止まり、ホームまで達しなかった。斜路には止水板が設置されていたが、隙間に砂が入って立ち上がらなかったとのことである。このような構造の止水板がそのまま全国で多用されている。

 地球温暖化とともに集中豪雨の発生頻度が高くなる環境では、地下室や地下街の浸水事故が起こる危険性はさらに高くなる。私たちはそのことに気づいて、自分で注意しなければならない。なぜなら、対策はそれほど容易ではないし、地下街は、周辺のビルの地下階ともつながっており、水が浸入する経路は複雑かつ多岐にわたっているからだ。

※内容は2016年7月刊行当時のものです

河田惠昭(かわた・よしあき)
関西大学社会安全学部特別任命教授、人と防災未来センター長。東日本大震災復興構想会議委員。専門は防災・減災、危機管理。おもな著書に『日本水没』(朝日新書)がある。