225人もの死者を出した西日本豪雨(7月20日時点、朝日新聞社調べ)。この未曾有の被害によって得た今後の課題の一つに、このような大雨が大都市圏で降った際のリスクが挙げられるだろう。関西大学社会安全学部特任教授で、災害研究の第一人者である河田惠昭氏はかねてより地下街の「水没」の危険性について警鐘を鳴らしていた。著書『日本水没』(朝日新書)より、内容を紹介する。

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■東京・大阪・名古屋…大都市圏の地下街はなぜ危ないのか

 東京、横浜、名古屋、大阪、博多などの各駅は、すべて湿地帯や低平地だったところに作られた。大きな駅を建設するのにふさわしい敷地が当時の既成市街地にあったわけではなく、市街地に近く、誰も住んでいないところに駅ができたのである。誰も住んでいなかった一番大きな理由は、雨が降れば水に浸かる土地だからだ。そのような土地の性質は現在でもほとんど変わらない。

 1999年と2003年にJR博多駅周辺が浸水し、地下街「デイトス」にも流入した。近くの御笠川が氾濫し、下水が溢れる内水氾濫も重なったからである。筆者は現地に調査に行ってびっくりした。地下街に氾濫水が流入することに対する浸水対策がどこにも施されていなかったのだ。

 御笠川流域で、水害が起こるようになった原因は、過去約100年間で森林と農地の面積割合が、全体の95%から35%に激減したことにある。激しい都市化の波に洗われた。しかも川幅や堤防の高さに代表される川の姿は、河川の改修を行ってもほとんど変わっていないので、過去と同じ量の雨が降っても、年々危なくなってきている。

■水害で恐ろしいのは「停電」。もし酷暑だと…

 1999年6月29日の朝に福岡市で水害が起こったとき、JR博多駅周辺で12のビルディングの地下室が浸水して、電気のブレーカーが落ちた。すると、福岡空港のブレーカーも落ちた。暑い時期のことだから、エアコンが利かなくなった空港ビルは蒸し風呂状態で大変だったが、停電の原因がなかなかわからず、空港機能の回復までずいぶん時間がかかった。給電システムがネットワークでつながっていると停電は連鎖的に発生するが、その原因を判明させるのは難しいため、このようなことが起こる。

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