肖像権意識や法律・条例を守ろうという遵法意識は大いに結構だが、撮影愛好家を取り巻く環境は決していいものではない。SNSでの「炎上」事例や編集部に寄せられた声を精査すると、法律や条例に対する誤解や無知、「ゆがんだ正義」の存在が浮かび上がってくる。アサヒカメラ特別編集『写真好きのための法律&マナー』では、写真家・大西みつぐさん、弁護士・三平聡史さん、東京カメラ部・塚崎秀雄さん、アサヒカメラ編集長・佐々木広人の4人で座談会を開催。被写体と撮影者の「ほどよい距離感」について、3回に渡ってお届けする。今回はその2回目だ。
【盗撮の定義は? 肖像権侵害の刑事・民事責任は? ひと目でわかるチャートはこちら】
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佐々木 コスプレ同様にトラブルが多発するのが鉄道写真です。ある人が駅のホームの情景をツイッターで発信していたのですが、これに対して別の人が「いいかげん、こういう行為はやめろ」と撮影をとがめたんです。
大西 「いいかげん」ってどういうことですか?
佐々木 この人が投稿した写真は特定の人物を狙ったものではなく、駅や電車のある日常的な風景です。でも、コメントをつけた人も鉄道写真の愛好家のようで、投稿者の行為は「盗撮」と感じていて、こういうことを続けていると、鉄道写真愛好家全体にとって悪影響があると受け止めたのかもしれません。
塚崎 タレントが線路内に立ち入って撮影した写真をSNSに投稿して炎上しましたが、アンチはもちろん、同時に鉄道写真愛好家もたたくんです。彼らの目的は、「同じ鉄道写真愛好家でも、私たちはルール違反をする人とは違う」というポジションを確保するため。もちろん、このケースは書類送検までされていますのでダメなのですが、こういうたたき方が起きやすいのはSNSならではです。
佐々木 ただでさえ鉄道写真愛好家への逆風は強いですからね。
塚崎 SNSは気軽にコメントができるぶん、そこまで悪質なケースでなくても、「私はいい人です」アピールをするために正論を振りかざしてたたきたくなる誘惑が生じるところが厄介です。
佐々木 ゆがんだ風紀委員みたい。顔が写っただけで騒ぐなんて「肖像権アレルギー」ですね。
塚崎 本当ならボヤ程度で済むことが、みんながどんどん風を送り込むから燃え盛ってしまうんですよね。みんな、正義の鉄槌(てっつい)を振るいたがりますから。