■平和の配当を享受するべきだ

 米朝会談の前に行われたG7サミットは大失敗に終わり、G7は終わったという声もある。アメリカは、中国と貿易戦争の一歩手前だし、G7諸国とも鉄鋼・アルミの関税問題に加え、自動車への関税大幅引き上げという劇薬にも手を付ける姿勢だ。このままアメリカと各国の通商戦争が激化すれば、世界貿易が縮小する事態もあり得る。

 そうなれば、中身のないアベノミクスの頼みの綱である外需が頭打ちとなり、アベノミクスはたちどころに変調を来すだろう。

 こんな時だからこそ、日本経済の底上げに繋がるかもしれないプラス材料を真剣に探さなければならない。
米朝交渉が成功し、もし最終的に、核廃棄の合意が実現すれば、その後は経済制裁の解除、米朝国交正常化、そして北朝鮮への経済支援というシナリオが進む。

 北朝鮮のGDPは日本円で1.8兆円(2016年)ほどに過ぎないが、国民の教育水準は決して低くなく、12万平方キロの国土に約2500万人の人口を抱えている。周辺に日本、韓国、中国東北地方、ロシア極東地域が広がることを考えれば、米朝和解で地政学上のリスクがなくなった後は、この国は“北東アジアの新しい経済フロンティア”となり、国際的な対北朝鮮投資ブームが起きるはずだ。現に、韓国では、ロッテグループ、通信大手KT、観光業の現代峨山などが北朝鮮への投資を検討する特別な組織を設けたと報じられる。

 日本もこのチャンスを見逃すべきではない。北朝鮮への経済協力を協議する国際的な枠組みをリードするくらいの勢いで、これまでの圧力一辺倒の政策とは一線を画した、独自の経済協力の絵図を描くべきだ。

 2002年の日朝平壌宣言で、日本は北朝鮮に経済協力を約束している。その宣言を活用し、たとえば日本の新幹線を北朝鮮に供与・導入するというアイデアはどうだろう。4月27日の南北会談で署名された「板門店宣言」では、ロシア国境から朝鮮半島東部沿岸を縦断する「東海線」についての鉄道と道路の高度化を目指すと書いてある。その東海線をシベリア鉄道、さらには日韓海底トンネルで九州と連結すれば、日本から朝鮮半島を経由してヨーロッパにつながる壮大なユーラシア横断鉄道が完成することになる。中国の一帯一路構想と並ぶプロジェクトにもなるだろう。

 北朝鮮の電力インフラの整備に乗り出し、モンゴルで太陽光発電した電力を日本に送る巨大な送電網=アジアスーパーグリッドの建設の主役になってもいい。ソフトバンクがこの構想に深くかかわっているのもチャンスの芽になるはずだ。

 こう考えると北朝鮮和平が実現すれば、日本経済を元気にするビジネスチャンスは無限にあると言っても良い。早い段階から北朝鮮と経済協力の構想を話し合うなかで相互間に信頼が生まれれば、決して簡単ではないが、拉致問題の早期全面解決も視野に入る。

 不安なのは安倍政権が今後も北朝鮮敵視政策を続け、圧力路線に頑なにこだわることで、国際的な陣取り合戦で取り残される、という点だ。今からでも遅くはない。安倍総理は一番苦手なことかもしれないが、自らの不明を恥じて、これまでの態度を変更しますと宣言し、文大統領とトランプ大統領の努力を側面からサポートする役を担ったらどうだろうか。

 トランプ大統領は「対北経済協力資金、非核化のコストは日韓が拠出する」と公言している。このままでは日本は米韓に後れを取り、なおかつ、南北双方に恨みを買うことになる。その結果、トランプ大統領の言いなりになって、サイフ役としてその資金供与はさせられるが、経済プロジェクトの果実の配分には与れないということになりかねない。

 一方の韓国は、資金も出すが、その果実も最大限享受することになりそうだ。

 安倍総理は、メンツにこだわるのを止めて、平和の果実を日本にももたらすような戦略を早急に考える時だ。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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