■核・ミサイルの完全廃棄までに不信の連鎖は起きないか?

 上記のように考えると、今回の米朝会談が、真の恒久和平につながる可能性は十分にあると見るべきだ。しかし、論理的にはそうであっても、本当にそれが実現できるかはまた別の話だ。

 なぜなら、核・ミサイル廃棄には時間がかかる。物理的にも1年や2年では無理で10年以上かかるかもしれないということは、ようやく、日米のメディアの間にも理解され始めた。しかし、今も、「時間がかかる」と言うと、「一括ではない」から「段階的」だとして、「後退だ」と決めつけて騒ぐメディアも多い。

 しかし、時間がかかるのには、物理的な理由があるし、また、最終的に核・ミサイルが完全に廃棄されて今後も開発されることはないという判断をするには、結局、北朝鮮が嘘をついていないということを「確信」するという、「主観的要素」が最後まで残る。つまり、信頼が築けなければ、終わりは来ないのである。

 もし、その「確信」に至る長い時間、北朝鮮に、ひたすらアメリカを信じて、一切、何の見返りも期待せず、作業を続けろと言うのは、どう考えてもフェアではないだろう。そんなことをすれば、イスラエルやインド、パキスタンが核兵器を持っていても普通の国として遇されているのに、北朝鮮だけがこんな仕打ちを受けるのは不当だというそもそも論が蒸し返されるのは、むしろ当然のことではないかとさえ思う。

 そこで、北朝鮮が、自分はやはりアメリカに騙されているのではないかと疑心暗鬼になってしまえば、また核戦争の危機に逆戻りである。最後の最後の段階までそのリスクがあると考えるべきだろう。

■文在寅大統領の賢い外交を邪魔をする安倍総理

 今のチキンレースの中で、北朝鮮が一方的に敗北宣言をする可能性は非常に低い。一方、繰り返しになるが、米朝双方とも、冷静に考えれば、相互に協力することで、戦争という甚大な損害を回避し、さらには、新たな経済的利益を双方に呼び込むような取引も可能である。トランプ大統領の米朝首脳会談後の記者会見の前に記者団に見せられたビデオでの、核・ミサイルを放棄した後の北朝鮮の明るい未来絵図は、まさに、この問題を損得で考えようという提案をしたものだ。正義とかメンツとかではなく、「損得勘定」で双方ウィンウィンとなるディールの答があり得ることを双方が正しく認識すれば、真の信頼関係が確立されるまでの間は、「損得勘定」で何とか良い方向への交渉を続けて行くことが可能となる。

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