では、過換気症候群を生じやすい時間や季節はあるのでしょうか。神戸市立医療センター西市民病院の大倉隆介医師らは、受診時刻は午前よりも午後に多く、特に夕方から深夜にかけての受診が多かった、また夏に多くて冬に少ない傾向にあったと報告しています。一方、JR東京総合病院救急部門の山口陽子医師らは、9~12時が最も搬送件数が多く、ついで12~15時が多かった、月別では7月が最も多かったと報告しています。発症しやすい時期や季節については、さらなる調査が必要と言えるでしょう。

 最後に、過換気症候群はどうして集団で起きるのでしょうか。冒頭でも申し上げたとおり、過去にも集団発生した過換気症候群について、いくつか報告がなされています。

2013年6月 兵庫・上郡高校の女子生徒18人が過呼吸などで救急搬送
2014年6月 福岡・柳川高校の女子生徒26人が過呼吸などで倒れ救急搬送
2017年4月 千葉・幕張メッセで開かれていた人気ロックバンド「ONE OK ROCK」のコンサートで、21人が過呼吸などで救急搬送
2017年11月 岡山市内の小学校体育館内で、合唱の練習中に児童25人が過呼吸のような症状などで緊急搬送

 呼吸が速く、荒くなるという過呼吸状態は、もともと動物としてのヒトが危機的状況に陥った時に自律神経が興奮することに由来します。過呼吸状態は、その人が危機的状況にあることの最も明確なシグナルとして機能するのです。そして、そのシグナルは、他者に迫ってくる危機を警告する意味も持ち合わせているという可能性をBrune氏は指摘しています。つまり、過呼吸が緊急事態の警告としてのシグナルとして機能した場合、それを見た人は同じ危機反応として過呼吸を生じ、過呼吸の伝染、過換気症候群の集団発生を引き起こす、と考えられているのです。

 過換気症候群は、意識的に呼吸をゆっくり行う、または止めることで症状が改善します。できるだけ安心させてあげ、ゆっくり呼吸するように指示することで、短時間のうちに自然に軽快することが多く、予後も一般的に良好です。

 ちなみに、パニック障害の症状としても過呼吸が生じることはあります。けれども、過換気症候群の原因の多くがストレスによるものであるのに対して、パニック障害はストレスなど心理的な理由なく、突如として強い恐怖や不安を感じ、動悸や発汗、息切れや胸痛といったパニック発作を伴い、またその発作が繰り返されます。間違えやすいので気をつけてくださいね。

 私たちは、社会生活を送る限り、ストレスや不安、緊張状態からは切っても切り離すことができません。普段無意識に行っている呼吸ですが、不安や緊張を感じたときは、ゆっくり深呼吸してくださいね。

◯山本佳奈(やまもと・かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバーザー、CLIMアドバイーザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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