この日の16与四球は、1942年に小松博喜(黒鷲)が巨人戦で記録した14を上回るプロ野球ワースト。一人で毎回四球を与えたのも、もちろん史上初。投球数191のうち105球がボールという大荒れの状態では、二桁失点していてもおかしくない内容だった。

 ところが、終わってみれば、8対3で快勝し、勝ち投手になってしまうのだから、まさに「何でそうなるの?」である。

 ちなみに、これまで最も四球を与えながら勝ち投手になったのは、1946年の一言多十(セネタース)の13で、野茂はこの記録をも塗り替えてしまった。

「代えられても仕方がない納得のいかない内容でした。バックの援護で勝たせてもらったようなものです」(野茂)。

「ほかの投手では真似できん。野茂ならではやな」と鈴木啓示監督がミョーな感心をすれば、この日2打数2安打3四球と全打席出塁をはたした清原も「アイツらしいわ。この試合で10キロは痩せたな。それにしても、あの精神力はすごい」と脱帽するばかりだった。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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