●アジア一帯にも似た姿が

 余談だが、この烏天狗の姿は、インド神話に登場する「ガルダ」という神鳥に似ていると近年話題となった。ガルダはインドのみならず東南アジア各国において特別視されており、例えばタイ国王国章に用いられたり、インドネシアの国営航空会社であるガルーダ・インドネシア航空の名に取り入れられたりしている。

 この烏天狗のくちばしが、長い鼻となっていった理由はさまざま論じられている。仮面音楽劇で使われていたお面の形に影響されたとか、道の神さまであるサルタヒコ神の姿(鼻の長い猿の顔)と同化した、狩野派の祖・狩野元信が創作したなど言われているがいずれも確定した説はない。

●いつしか高い鼻を持つ姿へ

 天狗はやがて、くちばしの代わりに鼻が長くなり、より人間的な姿に変化していく過程で、翼を失い、飛翔するために手に団扇(うちわ)を持つようになった。

 とはいえ、天狗に定義はない。翼もくちばしも団扇も持った天狗像は各地に作られている。高いのが鼻かくちばしかいずれかの選択だけはあるようだが。

●怨霊は天狗の王に

 天狗を何かと分類するならば、基本的には「妖怪」である。

 悪さをするものであり、たたるもの、堕落したものを指す言葉である。「天狗の王」と呼ばれた平安時代の大怨霊・崇徳天皇をはじめとして、堕落した僧侶なども天狗と呼ばれ、人ではなくなった破戒僧は仏教の唱える六道(あの世の世界)には行けず、天狗道に落ちるものと考えられていた。

 それがなぜ、現在は神として祭られているのだろうか。

●武士たちに人気となった天狗さま

 強大な力を持った天狗たちの中から、悪さをせず、各地で人々を助け天変地異を防ぎ、次第に人々から尊敬を受けるようになるものが誕生し始める。多くは、京都・鞍馬寺、愛宕山、東京・高尾山、神奈川・大山などの霊山に住む天狗たちで、やがて神として祭られ崇められていく。これらの天狗には名前が与えられた。

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