モンバエルツ前監督も本来はこの4-1-4-1をベースにポジショナルプレーの進化を早めに図りたかったようだが、その前提になるパススピードと正確性を高いレベルで植えつけるまではいかなかったこと、インサイドハーフの適任者を天野純の他に見出せなかったことが大きかった。仮にモンバエルツ体制に4年目があったとすれば、その役割にマッチした選手を補強の第一候補としてアイザック・ドルSD(スポーティングダイレクター)にも求めたはずだが、ポステコグルーは中町公祐とダビド・バブンスキーという既存戦力に明確なビジョンを植えつけることで実現を図っている。
ポジショナルプレーのビジョンを共有したワイドなパスワークで攻撃を押し上げ、相手のディフェンスをボールサイドに引きつけながら、インサイドのハーフスペースを活用する組織的な崩しからフィニッシュに結び付ける。守備に切り替われば、なるべくラインを下げずボールにアプローチする。そうした基本コンセプトはポステコグルー体制の1年目から形になって表れ、今季のJリーグにセンセーショナルな驚きをもたらしている。
それは船作りに例えるならば、CFGが設計図を提供し、モンバエルツが3年間をかけて竜骨と素材を築き、一度組み立てたものをポステコグルーが基盤を生かしながら舗装したといったところだ。ただ、本当の意味でのポジショナルプレーを構築するには課題が多いように見える。例えば、相手のサイドハーフが横浜FMのSBにマンツーマンで付き、“偽SB”のポジショニングでも組み立てに参加できないようにすると、組織としての攻撃が機能不全になり、守備のバランスも悪くなる。
また、現状は自分たちの動きを継続的に機能させることに意識がいっているためか、相手を見て調整を加えながら支配的に“アタッキングフットボール”を進めていくことが十分にはできていない。当然、横浜FMがこうしたサッカーを進めれば、相手も対策を立てようとしてくる。“本家”のマンチェスター・シティーはそうした対策にも簡単に屈することはなく、基本スタイルはそのままに、試合に即した応用を加えている。
よく陥りやすいのが、自分たちから攻撃のアクションを起こしていくスタイルほど、相手に関係なく同じやり方を続けることが重要と考え、相手の分析を軽視してしまうこと。しかし、実はアクション型のサッカーだからこそ、想定される相手の対策を上回るために、スカウティングと対策への準備は欠かせない。マンチェスター・シティーのジョゼップ・グアルディオラ監督こそが、そのエキスパートとしても知られる。
横浜FMとポステコグルー監督がポジショナルプレーをベースにした“アタッキングフットボール”を進化させ、主要タイトルの獲得やアジア・チャンピオンズリーグ (ACL)での躍進に行きつくためには選手のさらなる成長、ポジションによっては補強も必要になってくるだろう。その先にはマンチェスター・シティーのコピーではない横浜FMのフットボールが見えてくるかもしれないが、それが特殊な戦い方として話題になるだけでなく、Jリーグ、日本サッカーに大きな刺激をもたらすことを願いたい。(文・河治良幸)