――当時の医学部は、女性が少なかった?

 そうですね。100人中9人でした。でも「女性だから」「男性だから」といったことは、学部生時代にはなかったですね。

――外科は男性の影響力が強いのでは?

 医局を決める際に、ある外科医から「(女性用の)当直室はないよ」と言われたときは、正直なにくそと思いましたね(笑)。外科医志望者も多かったので、当時は殿様商売でした。結局、女性の先輩医師がいる第三外科に入局。いまでは外科医の女性比率が高まっていることもあり、労務環境の改善も進みつつあります。

――外科医に魅力を感じていたのですか。

 手術がうまくなりたい思いはありました。手術が速いって、無駄のない動きなんです。早くそうなりたくて。ですが、初めて術者を担当させていただいたときは、全く手が動きませんでした。

――それは緊張から?

 いえ。どうしたらいいのかわからないんです。先輩医師は当たり前のように行っているので、メスを持てばできるんだろうなと思っていましたが、実際は、全然進みませんでした。医師1年目にとって、手術は「あこがれ」です。

――いまでは、乳がん手術で年間100例を超えることも。

 平均で週3件くらいの手術がありました。ですが、いまは外科学会などの仕事も増えたので、あえて制限しています。

 外科学会は、代議員に女性が少ないんですね。理事に至ってはゼロです。そうなると女性医師の意見が反映されにくいんです。一方で、外科医の女性比率は高まっています。だからこそ、女性の意見を吸い上げてもらわねば困るので、ポジティブ・アクションが必要です。

男女互いに
意識しすぎない、遠慮しない

――お子さんが2人いると聞きました。

 確かに女性は出産があります。医師という仕事との両立は大変ですが、できないわけではありません。

 一方で、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)のように、お互いに遠慮や意識しすぎることで、潜在的に女性に任せないケースもあるのです。だからこそ、しっかりと意見を吸い上げられる環境が必要と考えていますね。外科医だけでなく、医師全体でよりよい方向に変わってくると思いますよ。

(文・構成/井上和典)

※AERAムック『AERA Premium 医者・医学部がわかる2018』から抜粋