それでは「国会の正統性を取り戻すために衆院選をやり直せ」だろうか。初めはそう考えたが、それには600億円といわれる費用も、時間もかかる。それなら人々の暮らしや命を左右する政策に使ったほうがいい。

 となると、かける言葉は一つしかない。

「安倍さん、今思っていることを、ありのまま語って下さい」

 先日、財務省近畿財務局の男性職員が亡くなった。これを書いている時点ですでに、例の改ざんに関係した自殺だとうかがわせるメモの内容をNHKが報じている。

 自死を選ぶまでにはどれほどの葛藤があったのだろうか。生きようとしている自分には想像できない苦しみの大きさに、立ちすくむばかりだ。

 もちろん「改ざんとの関係は分からないが、亡くなったことは痛ましい」と述べて済ます手もある。だが安倍さんがそうするとは、私には思えないのだ。

 安倍さんといえば靖国神社へのこだわりで知られる。13年末に参拝した時は「国のために戦い、尊い命を犠牲にされた」英霊に尊崇の念を示し、冥福を祈った、と語った。

 もちろん自殺と戦死では扱いが違う。経緯にも分からない部分が残されている。それでも今回の男性は、結果として国のために命を落としたことにはならないか。その死を一国の指導者としてどうとらえ、自らの身を処すべきだと考えるのか。

 政治家としても個人としても、人の命や病気に向き合ってきた安倍さんだ。亡くなった男性と遺族の無念さに思いをはせ、何かを語らずにはいられないと信じている。

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野上祐

野上祐

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、翌月手術。現在は闘病中

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