最近では3月9日がその日だった。「大きな変化はないようです」。隣で配偶者がほっとする気配を感じた。「よかったね。」診察室から出て、彼女の肩をぽんとたたいた。

 次のCT検査まで1カ月間、時間をもらった。返事を放置していた2件のお見舞いの申し出に「その日程で大丈夫です」とスマートフォンからメッセージを送った。

 そんな日々を送るようになったからだろう。情報が大切なのは、ものごとを決める判断材料になるからだ、と実感する。

 こと医療に関しては、安倍さんほど情報の大切さを肌身で知る人は永田町にいないのではないか。首相復帰後の「首相動静」の記事を検索すると、年2回の割合で「東京・信濃町の慶応病院。人間ドック」との記載がある。16年には京都市内の会合でこうあいさつしている。「マイクロセンサーのロボットがあったらいいなと思います。腸にぬかりなく目を配って、潰瘍性大腸炎が落ち着いているか見てくれるロボットです」

 宿願の憲法改正に取り組む時間はどれぐらいあるのか。健康に神経をとがらせていることは間違いない。

 同じ病気を抱える同僚は15年春から安倍さんと同じ「アサコール」という薬を毎日飲み、年1回の内視鏡検査の画像に目をこらす。だが仮に悪化していても、ほかに薬はなく、できるのは食事量を調整してトイレの回数を減らすことぐらいだという。ほかの病気の可能性まで考えると、父親の晋太郎元外相を膵臓がんでなくしている安倍さんの真剣さは私どころではないかもしれない。

 最近、学校法人「森友学園」との国有地取引に関する決裁文書の改ざんが朝日新聞の報道で明らかになった。

 自身や昭恵夫人が関係しているかと切り離しても、判断材料としての情報の重みを知る安倍さんならば、問題の大きさがわかるはずだ。

 政権は憲法改正をはじめとする様々な政治課題を推し進める。それを可能にするのが、国会での議席数だ。

 改ざん前の文書に沿って国会答弁がなされていたら、昨年10月の衆院選で与党は今ほどの議席数を得ていなかっただろう。もちろん、衆院選に踏み切らなかったことも考えられるが、そこで勝った勢いがなければ、今のように改憲に前のめりになれていただろうか。

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安倍さんの忘れられない思い出とは?