「去年、この球団に初めて来たとき、何というのかな、静かというか、落ち着いたところだなと思ったんだよね。ホークスは番記者の数も、ファンも多いじゃない? オリックスだって、宮崎にキャンプ地が移転した時、たくさんのファンに来ていただいたしね」

 そう語る森脇浩司・野手チーフコーチは、ソフトバンクでコーチを13年、オリックスで監督・コーチを4年務めた経験がある。ソフトバンクの宮崎キャンプはほぼ連日スタンドがいっぱいになり、打撃練習でも主力級の柵越えの当たりに歓声すら沸く。

 オリックスもキャンプ地を宮古島から宮崎に移転した2015年、森脇監督のもと、約17万人のキャンプ来場者を記録した。ソフトバンクと同様、1軍と2軍の練習場が隣接しており、ファンにとっては1カ所で2倍楽しめる上に、選手との距離も近い。そうした熱い雰囲気の中でキャンプを過ごしてきた森脇チーフコーチにすれば、昨年の北谷は少々、肩すかしの状態だったようだ。

 ところが今季は「松坂大輔」という大スターが中日に加入した。たった一人、本物のスーパースターがいるだけで空気が一変した。森脇チーフは「こういう盛り上がりっていうのかな、相乗効果というのかな、これを本当の“効果”にしないといけないよね」と力説する。

 見られている、注目されている。松坂が登板した試合で打って目立ち、リリーフで好投でもすれば、その選手だって注目される。5年連続Bクラスという低迷に加え、絶対的スターの不在に悩み、本拠地の観客動員も年々、減少を続けている中日にとって、この「松坂フィーバー」をいかにして活用するのか。球団にも選手にも、思いも寄らぬチャンス到来でもある。

 さて、その“フィーバーを生む男”はいったい、どれだけの戦力なのか。後編(2月13日配信予定)では「戦力としての松坂」についてレポートしていきたい。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。