「妻を選ぶ」けど、彼女もできる限り傷つけたくないからきれいに別れたい、というのも、妻を選んでいるように見えて、「どちらともうまくやっていきたい」というスタンスです。

 妻・彼女それぞれの側からしたら、「どちらともうまくやっていきたい」という話が成り立つはずもなく、両方に対して都合のよい態度をとるのは、結局のところ、修羅場になった時の傷の深さと引き換えに修羅場に至るまでの時間を引き延ばしているだけに過ぎません。

 そういう意味で、批判されるリスクがあるにも関わらず自分の気持ちをはっきりさせた豊原さんのスタンスは正直なものだと思います。もちろん、不倫自体がいいといっているわけでも、それがうまいやり方だとも、豊原さんの妻子が傷つかないと言っているわけでもありません。

 こうした時、不倫された妻の立場に立つと「小泉さんと別れれば、自分のところに戻ってきてくれるのでは……」と考えそうですが、それは本質的にはあまりうまくいきません。

 なぜなら、そもそもうまく回っている夫婦には求心力が働いていますが、豊原さん夫妻にはそれがないと思われるからです。求心力は「絆」といってもいいのですが、絆という言葉のイメージよりももっとダイナミックで、日々積み重ねていく、相手と近づいた体験です。一緒に幸せな思いをした経験、辛い時に支えてくれたこと、相手の意外な一面を発見して好感をもったことなどの経験が求心力です。それは大げさなことだけではありません。

 例えば、靖男さん(仮名)は、妻が入院したことで、今まで毎朝朝食を作ってくれるのが、とても幸せだったということに気づきました。

 香織さん(仮名)は、夫とスーパーに行って賞味期限が長い奥のものを買うように言うと、夫は「みんなが賞味期限に目くじらを立てるから食品廃棄が多くなってしまう。だから、自分は順番通りに買う」と言われ、自分とは行動が違うから、何も考えていない人だと思っていたけどしっかりした考えがあるんだと、ちょっと尊敬の念を感じたそうです。そんな日々の細かな経験が2人を近づけます。

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不倫が起きる背景