1月31日、非常に重要な判決が出た。何が争われているのかを簡単にまとめれば次の通りだ。
まず、2015年に成立した安全保障関連法では、日本と密接な関係にある他国への武力攻撃によって日本の存立が脅かされるような「存立危機事態」が起きた場合、集団的自衛権によって武力行使ができると定められている。これは皆さんご存知のとおりだ。
この法律に基づいて集団的自衛権が行使される場合、自衛隊法76条に基づいて、内閣総理大臣から防衛出動命令が出る。この命令を受けた自衛官は、もちろん、これに従う義務がある。
では、自衛官がこれに反して出動を拒否したらどうなるか。重大な任務違反だから懲戒免職を含む厳しい処分を受けるのはもちろん、自衛隊法第122条第1項により懲役または禁錮7年以下の刑事罰に処せられる可能性がある。
しかし、集団的自衛権が憲法違反だということであれば話は別だ。違憲の法律による防衛出動命令も憲法違反で無効。無効の命令なら従う義務はない。したがって、自衛官はこれを拒否できるのだが、実際には、いくら自衛官が違憲だと主張しても、こうした厳格なペナルティーを科す手続きを止めることはできない。
もちろん、刑事裁判になれば集団的自衛権の違憲性について主張できるし、違法な命令を前提とした違法な懲戒処分などに対して、国に対する損害賠償請求訴訟を起こすことはできる。しかし、その判断が確定するまでには長い時間がかかり、その間に自衛官は免職などの処分を受け、しかも社会的に「非国民」などという不名誉なレッテルを貼られて再就職も困難になるだろう。家族も非常につらい目に遭うことは確実だ。その被害はお金で解決できるものではない。したがって、実際にそういうことが起きてから裁判をするのではなく、あらかじめ出動命令が出てもそれに従う義務がないという確認を裁判所に求めるのには、十分な理由がある。
以上の理由でこの自衛官は2016年3月に国を訴えていたのだ。
ところが、第一審の東京地裁は、「現時点で出動命令が出る具体的な可能性はなく、原告(自衛官)が主張する不安は抽象的なもの」という驚くべき理由で、具体的な議論に入る前にこの訴えを却下してしまった。もちろん、集団的自衛権の違憲性の判断はされなかった。