私は、安倍政権が憲法改正を急ぐ理由の一つは実はここにあると見ている。この点はこれまで見落とされていたのではないだろうか。

 今回の高裁の判断を受けて、おそらく安倍政権は、ますます憲法改正を急がなければならないと考えるだろう。しかも、集団的自衛権が合憲であることがわかるような形での改正が必要だと考えるはずだ。なぜなら、今も、自衛権は認められるが集団的自衛権は含まれないというのが通説だからだ。自衛隊の存在をただ書き加えるだけで従来とは何も変わりませんと言えば、では、通説に従えば集団的自衛権もこれまでどおり認めないということになると言われかねない。

 安倍政権の懸念を解決する具体的な条文としては、2017年5月15日の本コラム「2020年 安倍改正案は“加憲”ではなく“壊憲”」でも紹介した次のような条文が参考になるだろう。

<第九条
3 前項の規定にかかわらず、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、自衛権を行使する目的で、内閣総理大臣を最高指揮官とする自衛隊を保持するものとする>

 新たに加えられる3項では、これまでの9条1項、2項の例外を書くのだということを「前項の規定にかかわらず」という表現で宣言したうえで、裸で自衛権と書けば、特に限定がないので、これまでの解釈とは異なり集団的自衛権も入ると読むことも可能だ。

 さらに洗練されたやり方としては、例えば、「国際法上認められた範囲内で自衛権を行使する目的で」などと、いかにも集団的自衛権の範囲を限定するように見せかけるやり方もあるだろう。集団的自衛権は国際法上認められているので、限定したように見えて実は日本の憲法上も認めたことになるのだ。

 いずれにしても、今回の判決は、今後の憲法改正の議論にまで影響を与える重大なものだということをマスコミは十分認識して報道して欲しい。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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