■矛盾だらけの安倍政権の主張を高裁一蹴

 東京地裁が却下の理由として挙げた理屈は、安倍政権側が裁判で展開した理屈そのものだ。第1回口頭弁論で、国側は「(防衛出動の条件となる)存立危機事態は発生しておらず、将来発生するかも不明で、訴えの利益はない」として却下を求め(2016年7月12日毎日新聞)、北朝鮮のミサイル危機が燃え盛る17年11月の段階でも「国際情勢に鑑みても具体的に想定しうる状況にない」「(北朝鮮との衝突は)抽象的な仮定に過ぎない」などと述べていたそうだ(2月3日付朝日新聞社説)。

 北朝鮮のミサイル・核開発の危機をことさら煽(あお)っている安倍政権が、この自衛官が訴える不安に対して、「具体的に想定しうる状況にない」とか「抽象的な仮定」などと述べている。「二枚舌」とはこのことだ。

 しかし、東京地裁は、国の意向を忖度(そんたく)して、この訴えを門前払いにした。そこで自衛官側は東京高裁に控訴した。

 一般の省庁の官僚よりはるかに官僚的と言われる高裁ではあるが、今回の東京高裁の裁判官は良識派だったのだろう。国の主張を「安全保障関連法が成立したことに照らして採用できない」として退け、東京地裁でもう一度審理し直すように差し戻す判断を下したのだ。

 この結果、東京地裁では、集団的自衛権の違憲性について具体的な審理に入る可能性が高まったが、その意味するところは極めて大きい。なぜなら、違憲性が審理されるということは、「違憲判断」が出る可能性があるということだからだ。最後は最高裁まで行くだろうから、集団的自衛権に関する憲法判断を実際にそれが発動される前に最高裁が下すという場面も想定できる。

■重大ニュースを軽く扱う大手メディア記者の能力

 これだけの重大な意味を持つニュースだったのだが、意外なことに、各紙とも比較的小さな扱いで、民放はほとんど取り上げなかった。

 名護市長選挙を控えて、安倍政権が安保関連の話題に非常に敏感になっているということを忖度したのか。あるいは、悲しいことだが、記者が不勉強で、この訴訟の重要性を理解していなかったのか。

次のページ
一般民と現役自衛官の訴訟を同列に考えるのは大間違い?