阪神・桑原謙太朗 (c)朝日新聞社
阪神・桑原謙太朗 (c)朝日新聞社

 2017年もさまざまな出来事があったプロ野球。華々しいニュースの陰でクスッと笑えるニュースもたくさんあった。「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に2017年シーズンの“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「ああ勘違い編」である。

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 救援投手を乗せてやって来たリリーフカーが、交代を却下され、スゴスゴ引き返すというコント顔負けのドタバタ劇が起きたのは、5月17日の中日vs阪神甲子園)だった。

 1対1の8回、7回1死からリリーフした桑原謙太朗がマウンドで投球練習を開始したところへ、香田勲男投手コーチが足を運び、間もなく3番手・高橋聡文を乗せたリリーフカーが球場内に現れた。

 だが、この投手交代は認められず、審判団に制止されたリリーフカーは、そのままバックして引き返す羽目になった。

 なぜなら、公認野球規則5.10に「すでに試合に出場している投手がイニングの初めにファウルラインを越えてしまえば、その投手は、第1打者がアウトになるかあるいは一塁に達するまで、投球する義務がある。ただし、その打者に代打者が出た場合、またはその投手が負傷または病気のため、投球が不可能になったと球審が認めた場合を除く」とあるからだ。

 つまり、桑原がすでにファウルラインを越えてマウンドに上がっている以上、最低打者1人との対戦が終了するまで、高橋への交代は認められないのだ。それでは、なぜこんな交代ミスが起きたのか? 

 実は、阪神ベンチは、桑原を回またぎで続投させるつもりはなかった。だが、この回の中日の先頭打者が投手のバルデスであることから、「十中八九代打」と予想して、投手交代を告げたことから、話がややこしくなった。

 もし、代打が出ていれば、前記の野球規則により、桑原がマウンドに上がった後でも、高橋への交代は認められたが、予想に反してバルデスがそのまま打席に入ったため、一度は受理された投手交代が無効になってしまったのだ。

 まさかの続投となった桑原は、バルデスを二ゴロに打ち取り、荒木雅博に左前安打を許した後、高橋に交代。さらに2死一、二塁からマテオが登板し、この回を何とか無失点で切り抜けた。

 その裏、高山俊の左越え決勝二塁打が飛び出し、2対1の勝利。香田コーチは「僕の勉強不足です。みんなが頑張ってくれて、ホッとしています」と、交代時の大ポカを帳消しにしてくれた選手たちに感謝しきりだった。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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勘違いをするのは選手だけではない