■「素人は噴火なんか心配していない」という判事の意外な指摘

 さらに、問題なのは、火山事象についての言及部分である。

 今回の決定では、原子力規制委員会が策定した安全性審査の内規である「火山ガイド」に従って稼働停止という判断を導き出した同じ裁判官が、一方で、巨大噴火については、「発生頻度が著しく小さくしかも破局的被害をもたらす噴火によって生じるリスクは無視し得るものとして容認するというのが我が国の社会通念ではないかとの疑いがないではなく」と述べている。つまり、巨大噴火のことなんかみんな心配してないのに、規制委は考え過ぎだと言っているように読める。

 この決定では、さらに続けて、「このような観点からすると、火山ガイドが立地評価にいう設計対応不可能な火山事象に何らの限定を付すことなく破局的噴火(VE17以上)による火砕流を含めていると解することには、少なからぬ疑間がないではない」とまで言ったのだ。

 ややわかりにくい表現だが、要するに、巨大噴火のことなど一般国民は心配していないのに、規制委の火山ガイドが、対応が不可能な火山事象として巨大噴火(破局的噴火)による火砕流まで含めてしまったのがやり過ぎだと言っているのである。

 つまり、この裁判官は、「火山ガイド」で、巨大噴火の時の火砕流にまで対応しなくても良いということにしておけば、再稼働停止の結論にはならなかったのではないかと指摘しているわけだ。実際には、そうなっていなかったので、そのまま「火山ガイド」に従って差し止めという結論を出したのだが、それは、裁判所の本意ではなかったと言っているように見える。

 高裁判事もサラリーマン。一般に、高裁判事は一番お役人体質が強いと言われている。意地悪く見れば、再稼働停止という判断をするにあたって、上司に対する言い訳を書いておいたという理解も可能だ。なぜなら、こんなことをわざわざ書く必要はないからだ。単に火山ガイドに従えば、こうなるということで足りたのではないだろうか。

 「火山ガイド」は、法律でも政令でもない。規制委の単なる内規。つまり、規制委が自由に決めたり変えたりできる。高等裁判所に心配し過ぎと言われたということになれば、規制委は「今回の高裁の判断を真摯に受け止めて」この火山ガイドを書き換え、巨大噴火が起きるかどうか定かでないときは、とりあえず対策は不要とするとか、対応の内容を軽いものに変更することもできる。

 この裁判では、火山以外の他の差し止め理由はことごとく却下されているので、その理屈によれば、火山ガイドさえ書き換えてしまえば、結局、差し止めはできないということになってしまう。

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脱原発は国民が決める