■判断の根拠が諸刃の剣

 第一に、今回の決定は、3号機が停止中に行われたということを頭に置いておく必要がある。関西電力の高浜3、4号機の差し止めの時のように、動いている原発を止めたわけではない。したがって、決定を下す裁判官にとって、心理的ハードルはやや低かったということになる。稼働中でも止められたかというと、少し疑問が残る。

 第二に、運転停止期間を9月30日までとしたのがやや合理性を欠いているように感じられる。別途争われている本案訴訟の方で、再稼働容認という判断がなされるかもしれないからという理由だが、その場合は今回の決定が生きていても、再稼働が認められるわけだから、期間を区切る根拠としては弱い。
本案訴訟の判決が延び延びになった場合、9月30日までに判決が出なければ、事態に何の変化もないのに、差し止めの効力が無くなり、再稼働が認められてしまう。それを止めるためには、また新たな仮処分を求める必要が出てくる。例えば、裁判官が病気で交代したりすれば、そういうことは十分生じうることを考えれば、どうしてこうした判断に至ったのか疑問が残る。

 第三に、これが一番重要なことだが、決定要旨を読むと、この裁判の中では、火山以外の論点についても、(1)司法審査の在り方、(2)新規制基準の合理性に関する総論、(3)新規制基準の合理性に関する各論として、(ア)基準地震動策定の合理性、(イ)耐震設計における重要度分類の合理性、(ウ)使用済燃料ピット等に係る安全性、(エ)地すべりと液状化現象による危険性、(オ)制御棒挿入に係る危険性、(カ)基準津波策定の合理性、(キ)火山事象の影響による危険性、(ク)シビアアクシデント対策の合理性、(ケ)テロ対策の合理性、(4)保全の必要性、(5)担保金の額など、幅広い論点について争われたと書いてある。

 詳しいことは決定の資料(400ページ以上ある)を全部読まなければわからないが、決定の要旨を読んだ限りでは、(1)については前述した100キロ圏の住民まで原告適格を認めた点や立証責任について、かなり原告に配慮したことが読み取れるが、その他は、火山関連を除き全て理由としては却下されている。

 一言で言えば、火山以外の点については、原子力規制委員会の新規制基準は妥当だとし、基準地震動や基準津波の策定の仕方、テロ対策も問題なしとしているということになる。この点は、非常に不満の残るところだ。

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「素人は噴火なんか心配していない」という判事の意外な指摘