私は、警察小説を書く女性作家がいないから書こうと思ったわけではありません。もし、私が警察小説を書くとしたら、こう書くというのを出したに過ぎないんです。結果的に女性作家が書いていなかったという流れになっているだけです。ある意味では、組織の中の話は男性作家に書いてもらえればいいと、自分の中で割り切っている部分があります。私はもっと身近に起きる問題を取り上げた方が自然だと思っているし、これまでは、それが行われていなかっただけ。そういう意味では、新しい分野かもしれませんね。欲を出して、ドラマ化を意識するなら、この路線だろうと思うことはありますが(笑)

――なぜ、時代小説から警察小説へ?

 とにかく、ミステリーのテクニックを完璧なものにしたかった。時代小説といっても、私の場合は時代ミステリーですから。ただ、時代小説を読む方は、ミステリー要素を好まないように感じたんです。それでも、どうせやるならしっかりしたミステリーを書きたいと思っていました。では、どの分野でやるかと思ったときに警察小説が浮かんだんです。私は海外ドラマをよく見ますが、原作者が検死官だったり、医師だったりということが普通にあります。そういった、警察官ではない人を警察に引き込んで展開するストーリーは面白い。それをベースにして、もし舞台が日本だったら、もし私が書くんだったらという味付けをしていったのが初期の作品です。

 12月発売の『警視庁特別取締官 ブルーブラッド』は、シリーズ2作目ですが、捜査一課を左遷された女刑事と、生物学者兼獣医の男性の異色コンビを描きました。まさしく、海外ドラマのパターンです。ただ、きっかけは、朝日新聞に掲載された、警視庁生き物係という動植物専門の捜査員に関する記事でした。警察にそんな部署があることは知りませんでしたし、部署名を見ただけで興味をそそられました。何より、〈生き物係〉という名称が親しみやすくて、身近に感じられるので、、これは面白いかもしれないと。そんな二人を主人公にして、シリーズ一巻目の『警視庁特別取締官』ではネグレクトをテーマにし、新刊では、絶滅危惧生物の密輸事件をテーマにしています。どちらも、身の廻りにあって不思議ではない事柄です。

 どのシリーズでも、弱い人の存在を描いて、それを自分のことに置き換えて読んでほしいと思っています。性犯罪に関しても、身近な人による被害が一番多いのに、誰も自分の身には起きないと思っています。身近な人だけに油断があるのでしょうが、常に警戒心をもってほしいし、その危険性を警告したいと思っています。他人事ではなく、自分事としてとらえることができて初めて、相手の身になって考えられるのです。あくまでも他人事、非日常的だと思っていることが、実はそうじゃないんだということを訴えていきたいと思います。