1988年に架空戦記物でデビューし、時代小説で人気を博してきた六道慧さんが近年、警察小説に挑み、話題となっている。

 男性作家、男性読者というイメージが強い警察小説に女性作家として正面から取り組んだ六道さんだが、苦労は多かったという。安定した人気を誇る時代小説を一時中断してまでなぜ警察小説を書いたのか。その思いに迫った。

――あえて警察小説に挑んだ理由は?

 警察小説を読んでいて思ったのは、身近に起きている小さな事件の扱いが少ないということです。どちらかというと、警察の組織の話がベースにあって、そこから事件を捉えているのではないかと。私の場合はそうではなく、虐待や性犯罪、ストーカーなど、弱い存在――女性、子供、お年寄り――がかかわってくる事件を描きたいという思いが一番にありました。

 男性作家の書いた作品を読みながら、私ならこういうものを書くな、という思いはありました。それは、男性作家の作品が良いとか悪いとかいうのではなく、男性視点か女性視点かという違いなんだと思います。

 最近では、少年課とか生活安全課など、警察の中でも女性が主軸になっている課が増えてきています。それまでは、例えば性犯罪被害に遭ったりすると、どこかで、女性の側にも悪いところがあったのではないかと言われてきました。実際に、性犯罪被害に遭っても口に出せないし、訴えることも躊躇してしまう。それが近年、被害者が少しずつだけれど、声をあげるようになってきました。それなのに、そうした状況を警察小説で取り上げないのはおかしいんじゃないかと思いました。だったら、それをメインにしたらどうなるか。生々しい例えですが、性犯罪被害に遭ったとき、72時間以内であれば、精子を殺す薬もあります。そういった情報も小説内で紹介したい。読むことによって知識も得られるというところを小説という形で示したかったんです。

 幸いなことに、これまで書いた警察小説は、すべてシリーズ化となっていますので、ある程度は目を向けてもらえたかなと思います。男性作家とはちょっと違う色が出せたかなと。同じものをやっても、読んでくれないに決まっていますから。

――女性が警察小説を書くのは、ハードルは高い?

 警察小説は男性のものだという思い込みがあるのではないでしょうか。その上、文庫書き下ろしとなると、それなりに書く側のリスクも増えるので、自分たちの世界ではないという思いもあるのかもしれません。

 でも、定価の面からいっても、読者が一番気軽に手に取れるのは文庫なんですね。出版社にとっても、文庫が屋台骨を支えるという部分もある(笑)

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