指揮官の指摘通り、2007年の現行のCS発足後、パ・リーグではFSを3度突破したソフトバンクも含め、過去10度のFSでステージ突破を果たしたチームはすべて初戦を取っている。その『先手必勝』へ向け、指揮官のハラも固まった。

 右脇腹痛の柳田悠岐は今シリーズに間に合わず、最後まで工藤監督が模索していたベンチ入りも回避。「主軸の柳田君がいない。不安ゼロというわけじゃない。でも、シーズン中もケガ人が出ても、それを補ってきた。選手に対する期待はすごくある」と語り、柳田不在のFSで注目される打線に関し、4番は「内川君で行く予定」と明言した。

 左手親指付け根の骨折で、7月下旬からおよそ2カ月の戦線離脱を余儀なくされた内川だが、復帰後の4試合ではすべて安打を放つなど、順調な復調ぶりを見せている。ただそれ以上に、内川自身が「チームに迷惑をかけた」と不在だった2カ月分を取り返すべく、ひたむきに野球に取り組む姿勢を見るにつけ、指揮官は「CSにかける思いがすごく伝わってくる。顔を見ても生き生きしている」と、ベテランが見せる心意気も“4番復帰”の理由のひとつだと明かした。

 先発に指名した東浜巨も、西武・菊池雄星に16勝で並ばれた最多勝のタイトル争いで、単独での獲得を狙えるチャンスをあえて回避し、調整と治療を優先した。千賀滉大、和田毅らFS開幕を担う力も格も備えた投手もそろう中、工藤は「1シーズンを通して、チームを支えてくれた」と、27歳の右腕に芽生えた“エースの自覚”を尊重した。

「シーズンの成績は関係ない。短期決戦は何が起こるか分からないし、まずはチームのため。ひとつの勝ちにこだわり、今までやってきたことを信じて、後ろで守ってくれている野手の方々、僕の後ろを投げてくれる投手陣を信じて、魂を込めて投げたい」と、FSで初の先発マウンドを担う東浜は、穏やかな口調の中にも揺るぎない決意をこめた。

 シーズン3位でFSに進出してきた楽天は、西武とのファーストステージで初戦を落としながら第2戦、第3戦で連勝と、パ・リーグではファーストステージ初の初戦黒星からの連勝で突破。その勢いは侮れないものがあるだろう。

 ただ、西武との3連戦で則本昂大、岸孝之、美馬学の先発3人を起用、移動日を1日挟んだだけで臨む博多でのFSは、1戦目の先発が今季3勝の塩見貴洋、2戦目は同8勝の辛島航の起用が濃厚だ。一方、ソフトバンクの1戦目は同16勝で最多勝のタイトルを獲得した東浜、2戦目は同13勝で最高勝率に輝いた千賀、3戦目はベテラン左腕・和田が控えている。

 このマッチアップに加え、4戦先勝となるFSでは、リーグ優勝のソフトバンクに「1勝」のアドバンテージ、さらに本拠地・ヤフオクドームでは今季48勝19敗という地の利もある。

 今季、史上5位となるシーズン94勝を挙げ、パ5球団すべてに勝ち越し、セ・パ交流戦でも3年連続1位だった。「どのチームにも勝ち越した自信と、ペナントレースに優勝した誇りを持って戦うべきだと思う。ただ、守りではなく、日本シリーズに出るためのチャレンジ。その意識をみんなに持ってもらって、CSを戦っていきたい」と工藤監督。2位に13.5ゲーム差をつけるという圧倒的な強さでリーグを制した今季のソフトバンク。2年ぶりの日本一奪回を目指し、いよいよ火ぶたを切る“秋の陣”では、果たしてどんな戦いを見せてくれるのだろうか。(文・喜瀬雅則)