「それがないんだよ。そういって通してもらって」

 再び出口のおばさん職員のところへ。

「ないそうです。そういって通してもらえと彼が」

 審査ブースにいる審査官を指さした。

「だめだね。ルールだから。そう彼にいいなさい」
「でも、用紙はないって……」

 再びブースに戻って伝えるしかなかった。用紙探しがはじまった。20分ほど待っただろうか。別の審査官がどこからか、用紙を見つけてきた。

「ここには書くテーブルがないからあっちで」

 と示されたのは、APCの機械が並ぶ脇だった。振り出しに戻ったような気分になった。

 入国カードに書き込み、また審査ブースへ。指示されたのは別の審査官のいるブースだった。コンピューターに僕のデータを打ち込みながら、その職員がいう。

「もうアメリカに入国してるじゃないか。どうしてまたここにいるの?」

「だから……」

 なんだか疲れるアメリカ入国審査だった。こんなことでいいんだろうか、アメリカは。やっと到着した搭乗口でため息、ひとつ。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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