ただ私のことで言えば、病気が見つかったのは血液から腫瘍の有無を調べる腫瘍マーカーを人間ドックの検査項目に自費で加えていたからだ。そこで見つけなければ、今こうしてものを書いている時間もなかったかもしれない。どんな動きに注目するのか。あらかじめ想像の幅を広げておかなければ、実は何かが動き始めていても見逃してしまうのではないか。

 同じ定点観測でも、血液検査と報道では大きく違う点もある。

 検査をしても、それによって腫瘍が伸び縮みすることはない。これに対し、報道の場合は、読んだ人の受け止め方によって、体の状態が変わりうるのだ。動きに危機感を覚えて街頭に立つ人や、選挙での一票に思いを託そうとする人。逆に、動きがないと心配し、首相が「導入することは予定していない」と国会で答弁した「新たな捜査手法」を求める声も出てくるかもしれない。

 それで構わない、と思う。読者に判断材料を示すのが報道機関の役割だ。

 私が毎週のように血液検査をするようになって1年以上たつ。それが頭の中で政治と結びついたのは、最近のちょっとしたできごとがきっかけだ。

 その話はまた、次回に。

著者プロフィールを見る
野上祐

野上祐

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、翌月手術。現在は闘病中

野上祐の記事一覧はこちら