「難治がん」と闘う新聞記者が、突然憎しみを覚えた「小鬼」の声 (2/4) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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「難治がん」と闘う新聞記者が、突然憎しみを覚えた「小鬼」の声

連載「書かずに死ねるか――「難治がん」と闘う記者」

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野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた昨年1月、がんの疑いを指摘され、手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた昨年1月、がんの疑いを指摘され、手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中

 手帳には都バスや都営地下鉄にただで乗れるカードが挟まれていた。運転手や駅員に見せれば使えて、希望すればパスモに切り替えられる、ということだった。

「社会福祉」の世界を当事者としてみるのは初めてだった。夕方、仕事から帰った配偶者に聞かせた。「きっと障害者手帳のことを駅員にも知られたくない人がいるんだろうね」とパスモへの切り替えのことを言うと、「そのほうが、駅員がいない改札でも使えて便利なだけじゃないの」と言われた。

 確かにそうかもしれない。区役所にはわずか十数分間いただけだ。それなのに、身を寄せてひそひそ話す感覚を妙に意識しているのに気づいた。

 声の大きさは相手との距離に密接に関わる。政治家や官僚の張りのある声を相手にしていたときは、それなりの距離があったものだ。

 病気で住む世界が変わると、その辺にも変化が生まれる。同じ空間にいくつもの世界が重なり合っているのだ。

●なぜか耳に突き刺さった声

 声では忘れられないできごとがある。

 もう1年も前のことだ。自宅から最寄り駅まで7分ほど散歩したところで、お腹がぎゅっと捕まれたようにこわばって動けなくなり、駅ビルのベンチにへたり込んだ。


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