改めて現在の一軍選手を見ても、5年後も主力として期待できるのは投手では先述した菅野と田口、野手なら坂本勇人、小林、石川くらいしか見当たらない。将来の4番候補として期待されている岡本和真も抜擢が遅れている印象で、エース候補となるとそもそも名前を挙げるのも難しい。他球団から補強しようにも超のつくような一流選手の目はアメリカに向いており、菅野が流出することも十分に考えられる。将来に備えたチーム作りは一歩も二歩も遅れていると言わざるを得ないだろう。

 ではかつてのように強い巨人を取り戻すためにはどうすれば良いのだろうか。まず手をつけるべきは過剰な補強の凍結だ。過去にFAで獲得した選手の成績を見ても効果的な補強になっていないことは明らかであり、若手の抜擢も遅れる結果となっている。少しでもチームの新陳代謝を進めるためにも実績のあるベテラン選手の獲得は行わず、現有戦力の底上げと若手の抜擢に注力すべきであろう。そしてもうひとつ見直す必要があるのがドラフト戦略である。過去5年間の1位指名を見ても、競合覚悟でその年のナンバーワン選手に入札したのは昨年の田中正義(創価大→ソフトバンク)だけである。長野久義、沢村拓一、菅野は強い巨人志望で獲得できた選手だが、今後そのような選手が出てくることは考えづらく、リスクを冒してでもナンバーワン選手に向かうことはチームを強くするために必要不可欠と言えるだろう。

 ちなみに同じように資金力が豊富で積極的に補強している印象の強いソフトバンクだが、過去3年間はFAで選手を獲得していない。そして今シーズンの交流戦では内川聖一、デスパイネと二人の外様出身の中軸を欠きながらも、上林誠知や甲斐拓哉といった生え抜きの若手の活躍で3年連続の最高勝率を達成しているのだ。過去5年間の1位指名を振り返っても3度1位で競合となっており、いずれもその年に最も高く評価されていた大物選手の獲得に成功している。更に育成ドラフトでも巨人が独立リーグや大学生を中心に指名しているのとは対照的にスケールの大きい高校生を多く指名し、そこから山田大樹、二保旭、千賀滉大、牧原大成、甲斐といった一軍戦力を輩出している。昨年完成した「HAWKSベースボールパーク筑後」に最新施設を揃え、ハード面も充実させているところも見逃せない。

 球界の盟主である巨人のやり方を他球団が追従する時代でないことは誰の目にも明らかである。ただ、そんな中でも救いは巨人のフロントもそのことに気づいて手を打ち始めているということだ。それが1位で田中に入札し下位でも素質豊かな高校生を指名した昨年のドラフトの結果にも現れており、稲城市に新たなファーム施設の建設を発表したことからも球団としての危機感が感じられる。重要なのは今シーズン結果が出なくても、目先にとらわれずに長期的な視野に立った戦略を続けることである。幸い今年のドラフト戦線では清宮幸太郎(早稲田実)という希代の高校生スラッガーがいる。ファーストしか守れない、育成に時間がかかるといったマイナス要素に目を瞑り、果敢に1位指名に踏み切るようであれば獲得できる、できないは別にして巨人の未来に明るい兆しが見えると言えるのではないだろうか。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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