久保はプレーヤーとして、まだ荒削りなところはあるだろう。例えばタイ戦は終盤、動きが極端に鈍った。90分を高いレベルで戦いきった岡崎慎司と比べたら、体力配分や戦術スキルは甘さがある。

 しかし、ゴールへ向かう意志の強さは並外れている。その意欲に引きずられるように身についた、精度の高いコントロールとキックを持つ。タイ戦の先制ゴールをアシストしたシーン、ロングボールをぴたりと止め、ディフェンダーと対峙し、少しだけボールをずらし、見事に折り返した。一連の技術だけで、久保が優れたアタッカーなのは歴然。ボールを引き出し、入れるタイミングは完璧だった。

 そして久保はゴールゲッターとして、仲間と呼吸を合わせるのに長ける。"協調力"というのだろうか。たくさん点を取るために、大きなアドバンテージとなる。

 UAE戦は、酒井宏樹からのボールを斜めに走って引き出し、鋭いシュートをニアサイドに打ち込んでいる。タイ戦はスローインの場面、岡崎慎司が空けたスペースに走り込んでボールを受けると、右サイドを走った香川真司を牽制に使いながら、左足にセットしたミドルシュートでゴールを決めた。どちらの得点も、久保が強い覇気を発することで味方と呼吸し、引き出したパスを逡巡なく振り抜いている。

 ビジャと同じく、久保のゴールには人生を感じさせる。ネットを揺らすことのみが正義、と咆吼するかのように。先陣を切れる男だろう。サイドで起用されながら、得点を叩き込めている点も、二人は共通している。

 では、久保はビジャの領域に近づけるか――。まだまだ遙か彼方だが、道は間違っていない。

小宮良之
1972年生まれ。スポーツライター。01~06年までバルセロナを拠点に活動、帰国後は戦うアスリートの実像に迫る。代表作に「導かれし者」(角川文庫)、「アンチ・ドロップアウト」3部作(集英社)、「おれは最後に笑う」(東邦出版)など。3月にシリーズ第6弾となる「選ばれし者への挑戦状」(東邦出版)を刊行。