タイ戦に日本代表として出場した久保裕也(写真:Getty Images)
タイ戦に日本代表として出場した久保裕也(写真:Getty Images)

 世界最高のストライカーの一人、元スペイン代表のダビド・ビジャはいかに生まれ育ったのか?

 そのルーツを訪ね、スペインの北西にあるアストゥリアス地方を旅したことがある。

 ビジャは4歳の時、身体の大きな年上の男の子とサッカーをしていて、乗りかかられたときに右太ももの大腿骨を折っている。「将来的に歩行が不自由になるかも知れない」。医師にはそう宣告された。

 しかし、ビジャの父親は「戯言を抜かすな」とまるで取り合わなかった。そして息子をベッドの上に座らせ、ケガをしていない左足にボールを投げ、蹴らせた。父は「治ったら、左足でも蹴れるようになるぞ」と笑って励ましたという。

 父は炭鉱夫だった。先頭に立ってランプを掲げ、石炭を掘り続けた。先頭にいるだけに岩盤が崩れたら、真っ先に生き埋めになる運命。それでも仲間を信頼し、それ以上に信頼され、「命ある限り、諦めない」という信条で生きてきたという。

 そういう血を受け継いだのか。ビジャはゴールに向かうときに圧倒的な迫力を放つ。生命の火花が散るような激しさだ。

 3月に行われたW杯最終予選のUAE戦とタイ戦で2ゴール3アシストという結果を残した久保裕也という選手を見ていると、ビジャの雄姿を思い出す。

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