そんな少年の日から歳月は流れ、“トップ10”の地位を2年以上維持して迎えた今季、錦織は2月の戦いの地に、アルゼンチンとブラジルの南米クレーコート2大会を選んだ。「クレーで今まで活躍が出来ているだけに、ここでポイントを取りに行く」との覚悟のもとに、自ら挑んだ今回の南米ツアーである。

 その開幕戦となるアルゼンチンオープンでは、赤土との相性の良さと、クレーの怖さの両方を改めて体験することになる。

 初戦(1回戦免除の2回戦)では久々のクレーへの適応に時間を要し、第1セットを落とす苦戦を強いられた。

 3回戦ではその課題を克服した姿を見せつけるかのように、大会第6シードのジョアン・ソウサを6-1、6-4で圧倒する。特にこの試合で効果的だったのが、クロスの打ち合いの中からストレートに切り返す一撃。相手の動きを見極め放つ錦織の強打と展開力に、ソウサはついていけなかった。

 準決勝ではしかし、再びクレー巧者の地元選手に苦しめられることになる。相手が1ポイントを取るごとに大声援が沸き起こる中、第1セットを奪われ、追いつき縺れこんだ最終セットも先にブレークされる過酷な展開。それでも錦織は必死に集中力をつなぎとめ、最後は疲れの見えるベルロックを逆転で退けた。

 そうして迎えた、決勝戦のドルゴポロフ戦――。錦織は第1セットをタイブレークの末に奪われると、第2セットはゲームカウント3-3の場面でブレークを許す。13年前のジュニア大会決勝戦では、第2セットのゲームカウント2-5の窮地から大逆転した錦織だったが、この日は巧みにコースを打ち分けるドルゴポロフのサーブを、最後まで攻略することができなかった。

 表彰式での錦織は、まずは優勝者に祝辞を述べると、厳しい表情を崩さぬまま「自分のプレーも含めて、アルゼンチンでは充実した日々を過ごせた。来週も良いプレーをし、そして良い1年にしたい」と決意を口にした。戦いの後には休む間もなく、彼らは次の戦地へ旅立っていく。向かう先は、リオデジャネイロ。リオオープンは既に、今日(20日)開幕を迎えているのだ。

 錦織が自ら選んだ南米のロードは、開幕戦で得た経験値と幾つかの悔いを携えて、今週も続いていく。

 これまでのキャリアの歩みがそうであったように、彼は再びクレーコートを、躍進の足掛かりの地に出来るだろうか――?

 その一つの答えは、リオの赤土に埋まっている。(文・内田暁)