サッカーの八咫烏(やたがらす)のように、胸に日本ラグビー協会の桜のエンブレムがついている(オリンピックでは日の丸)ことから「桜ジャージー」とも呼ばれる代表のユニホームを初めて着たのは、2008年の15人制の女子アジア選手権。山口は中学時から日本女子ラグビー連盟のユース強化選手に選ばれており、2005年に高校1年で鈴木彩香や横尾千里、今回はバックアップに回った加藤慶子らとユース代表のニュージーランド遠征に参加。当時、日本ラグビー協会は女子には関与せず、別団体だった女子連盟(現在は日本協会に合流)が手弁当で普及や強化を担っており、この時代の地道な努力が山口や鈴木、横尾、加藤ら代表の中核世代の育成につながった。

 山口は50m6秒6と日本選手の中で屈指の俊足を誇る。15人制では、かつての名選手大畑大介さんや昨年のワールドカップに続いてリオデジャネイロオリンピックにも出場する福岡堅樹と同じポジションのウイング。セブンズでも一番外側に位置して仲間がつないでくれたボールを相手インゴールまで運んでトライを奪う役目を担う。リオデジャネイロオリンピック出場を決めた昨年のアジア予選決勝でも先制トライにつながる突破をするなど、そのスピードは代表の大きな武器となっている。

 ただし、華やかな得点シーンが山口の真骨頂では決してない。女子であっても、タックルはラグビーの基本中の基本のプレー。サクラセブンズにもタックルの名手は多い。2008年のワールドカップ・セブンズアジア予選でチームを救うタックルをみせた兼松由香、正面衝突をいとわないというよりもむしろ好む冨田真紀子、ひたむきに相手を追い回す横尾らとともに、山口もまたハードタックラーだ。2009年のワールドカップ・アジア予選では大柄のカザフスタン選手にしっかりと身体を当てるタックルを繰り返していた山口に、同じ会場で翌日から試合を行うため訪れていた男子7人制代表の選手たちも目を見張っていた。

 そんな激しいプレーが可能なのは、彼女が鍛え抜いた強い身体の持ち主だから。2013年のワールドカップ・セブンズのオランダ戦では、骨太でサイズも大きいオランダ選手2人をひとりで押さえきり、体幹の強さを見せつけた。同じ大会に出場し、控室のテレビで応援していた男子代表選手から思わず感嘆の声が漏れるほど。先のタックルのエピソードと同様、そのプレーは男子の目から見てもたくましい。千葉県勝浦市の観光ホテル裏にある砂浜で夜明け前から練習が始まる「勝浦合宿」は、ハードトレーニングの象徴的存在。練習後に砂浜から走って宿舎に戻る登り坂の途中で、行き交うトラックに「ここで轢(ひ)かれてしまえば……と思いました」と選手が振り返るほどの厳しい練習が繰り返される。そんな過酷な砂浜練習で、男子コーチ相手のタックルなど身体をいじめる練習の合間に挟み込まれる砂浜のはずれの鯨の絵までの往復走でも、山口はいつも先頭で戻ってきた。

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