鈴木:面白おかしく書くんだけれど、その中のどっかに真実がある。僕、斎藤龍鳳なんかほんと大好きでね。風俗ルポも書けば、一方で映画評論もやっていた。そうかと思うと学芸誌で書いていたんですよ。彼の書いたいろんなものが1冊になったやつを学生時代に手に入れて何回も読みました。

■ジブリヒットの戦略のもとになった3冊

鈴木:僕は慶應大学へ行ったんですけど、2年目になると専門を選ばなきゃいけなかったんですよ。勉強している人は仏文とか行くんですけど、僕、全然勉強していなかったから、何の考えもなく社会学を選んじゃうんですよ。

半谷:私も社会学で、理由も同じです(笑)。

鈴木:仏文とか独文とかは入るのに試験もあったけど、社会学は誰でも入れる。入ってみたらいろんな本を読まされた。読んでみたら結構面白いんですよ。特に気に入ったのが、リースマンの『孤独な群衆』とE・H・フロムの『自由からの逃走』、それからブーアスティンの『幻影の時代(イメージの時代)』。先生から指定されて試験に出るから読まないといけないんだけど、読んでみると面白くてむさぼるように読む。その後3冊の本は何回も読むことになるんですよ。何でだろうと今振り返るとですね、『幻影の時代』っていうのは具体例がいっぱい出ている本なんですね。ケネディがニクソンと大統領選を戦った。最初はニクソンの方が優勢だったんだけど、テレビで2人の討論会をやると、ケネディが印象が良くていきなり大統領になる。その辺のことがすごい詳しく書いてあったんです。要するにテレビという新しいメディアでは見た目が勝負なんだと。なるほどなぁと納得させられるんですよ。で、『自由からの逃走』は自由を求めるんだけど、完全な自由を手に入れたら実はその自由からも逃げ出したくなる、これが人間の本質であると。『孤独な群衆』は、その言葉に非常によく現れているんだけど、都会には人がいっぱいいるんだけど、心の中はみんなさみしいんだと。ジブリ美術館の館長で中島っていうのがいて、彼はAERA(8/11ジブリ特集号)の中に詳しく書いているんですけど、住友銀行時代に膨大な不良債権処理の仕事をして嫌になっちゃって辞めた男なんですよ。僕が声を掛けてジブリにきてもらうんですけど、「読んだほうがいい本はないですか」って聞かれてね、僕、この3冊の本を勧めたんですよ。「これ読めば、だいたいいろんな仕事ができるぞ」と。いずれも古い本ですけど、今でも役に立つ。僕、先般、上野千鶴子さんと対談したとき、向こうはなんてったって社会学の大家ですから、恥ずかしながら「僕も一応社会学をかじっておりまして。実は自分がやってきたいろんなことで社会学が役に立った」って言ったんです。3冊の本に共通するのは「大衆消費社会ってなんなんだろう」っていうことが書いてあったんですね。僕らが生きた60年代70年代はまさに大衆消費時代。それを学ぶにはこの3冊のアメリカの本が非常に役に立った。僕、映画の宣伝をやっていくときもむちゃくちゃこの3冊が役に立った。

半谷:なるほど。

鈴木:とはいえ、いまは大衆消費時代が終わろうとしている。たぶんこれからは、3冊は役立たずになるかなと思っているんですけどね。

■知の「中日」、名古屋にかかわる偉大な2人

半谷:鈴木さんの母校、東海高校っていうのはどういう高校だったんですか? 卒業生には『地獄の思想』で有名な梅原猛先生がいると。

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