鈴木:新聞社もおんなじ。新聞、テレビ、雑誌。要するに普通の会社で働くには問題がある人が行く会社だったんですよ(笑)。いわゆるね、新聞社とか出版社とかはもとの商売は何だと思います?

半谷:……かわら版。

鈴木:そう。かわら版って何かというと、あることないことを書き、面白けりゃいいというものなんですね。時代劇では絶対に主役になれない人がやっていた商売でしょ。その名残が、僕らの就職のときはまだ残っていた。僕は縁あって徳間書店にもぐりこんだんですけど、親に「アサヒ芸能」という週刊誌の記者をやると言ったら、おふくろはまず「あんた、表に出るんじゃない」と。表に出てどこに就職したか聞かれるとみっともないから、外に出るなと。要するに日蔭者ですよ。それを自覚して生きなさいと。特徴は「あることないこと」をやる。真面目に働いている人たちは、あることないことを見て読んで楽しむ。それがもともと出版社だったんですよね。

半谷:徳間社長はそれを体現している方だったんですか。

鈴木:徳間康快は徳間書店の社長だったんですけど、今の読売新聞に入って、社会部である事件の記事を書いてデスクに見せたら怒られたらしいんですよ。その怒られる基準が「面白くない」。デスクに、「事件が起きたとき、お前はその場にいたように書け」って言われたらしいんですよ。要するに新聞は娯楽なんだから、客観的に書いたら面白くもなんともないだろうと。

 僕だって、徳間書店に入っていきなり週刊誌に回されて、忘れもしない4日目ですよ。舟木一夫という歌手が自殺しちゃったんですよ。千駄ヶ谷の旅館でね。未遂に終わったんですけど、取材して帰ってきて報告するとね、「次はここへ」「次は」と言われて、1日でいろんなところを取材したんですよ。でその日の夜、「書け」って言われたんですよ。僕ね、徳間書店の入社試験のときに「いままでどういう週刊誌読んできた?」と言われてね、「いや、週刊誌は読んだことはありません」と正直に告白したんですよ。読んだことなかったのに4日目に「取材してこい」、そして「書け」でしょ。ページは3ページあったんですよ。

 で、僕が何をやったかというと、アサヒ芸能をまず開く。3ページってどのくらい書かないといけないかなと調べたら、12字×300行。その次にね、週刊誌読むんです。何回も読んでると接続詞に特徴が見つかったんですね。それで、よく使う接続詞を紙に書きだした。「とはいえ」「にしても」とかね。それをね、自分の机のところに貼ってみた。困ったらこの接続詞のところへいけばいいと。で、書いてみた。なんとかなるもんなんですね~(笑)。デスクのところに持って行ったら「できるな」と言われたんですよ。気がついたらそのまま雑誌に載っちゃったんですよ。多少直されたけどね。

半谷:それが発売された。

鈴木:驚きましたね~。何が驚いたかっていうとね、ほんとにいいかげんな商売だなと。入ったばっかりですよ。3~4ページ書いて、それが通用しちゃう。

半谷:今回の選書のなかに『なにが粋かよ 斎藤龍鳳の世界』という本がありましたけど、同僚で年長の友人でもある旅行コンシェルジュがいて、彼の蔵書が鈴木敏夫さんのと近くて僕に教えてくれたんです。「映画評論家に斎藤龍鳳ってやつがいたんだ。奥付の初出を見てみろ。映画芸術か内外タイムスかアサヒ芸能だろ」って。

次のページ