鈴木:バカじゃないかと思うんですけど、真剣なんですよ。僕しょうがないから「はい、その通りでございます」って。で、映画が公開されて2週間も経ったある日、電話がかかってきたんですよ。「社長です」って。あの人いつも「社長です」って言うんですよ。いまだに忘れません。一言目に「勝ってうれしいか」って。僕は「うれしい」とは言わなかったけど、「『おろしや国酔夢譚』は宣伝が間違っている」と言って、だーっとしゃべったんですよ。そうしたら徳間康快が「そうだな、いまのは参考にしよう」とかね。面白かったですね~、生きているときは。


半谷 これ、逆襲受けませんでしたか。「ホーホケキョ(となりの山田くん)」のときに配給先をこれまでの東宝から松竹に、徳間さんが決めたとか。

鈴木:徳間グループ全部集める社員総会っていうのがあるんです。あるとき徳間康快がその前日に電話をかけてきて、「明日、社員総会の前にお前に話したいことがあるから」と。僕は1時間も前に行ったんですよ。ジブリの中では「となりの山田くん」は興行成績があまり良くなかった。そうしたら徳間康快がね、「山田くんがうまく運んでないなと。すべて俺の責任だ、すまん」といって頭を下げた。かっこいいですよね。「社長、そんなことを言うために僕を早く呼んだんですか」と言うと、「その通りだ」と。僕は「社長にそんなことを言われて恐縮しますよ」と言った。そうして総会に出たら壇上でいきなり社長が言うんですよ。「山田くんはジブリ始まって以来の失敗作である。これはすべて配給を松竹にしたところにある。この失敗の全責任は鈴木にある」と(笑)。あれはすごかったですね。

半谷:椅子から転げ落ちませんでしたか。

鈴木:もう笑うしかないですよね。なんかね、おもちゃにするんですよね。

半谷:鈴木さんはどうしたんですか?

鈴木:僕最初の第一声いまだに覚えていますよ。「今、社長からお叱りを受けました。全部その通りでございます。全部、その通りでございます。しかし、失敗したときにはその経緯が大事だと。何が失敗の原因だったか。すべては松竹に決めたことだと。これを決めたことが失敗の原因である」と。そうしたら徳間が下でニコニコ笑っているんですよ。大喜びなんですよ。ま、若い時はそういうもんですよ。

■宮さんはいつも反対する

半谷:いま「思い出のマーニー」が大ヒット上映中です。「あなたのことが大すき。」というタイトルも鈴木さんが決めたんですか。

鈴木:はい。

半谷:僕、北海道が出身地なもので、湿っ地屋敷を釧路にするんだなあと。でも宮崎駿さんは舞台を瀬戸内にするべきだと言っていたと。

鈴木:あの人は僕がAというとBという人なんですよ。この作品に関しては一切口を出さないと思っていたら出してきた。「鈴木さん、北海道はダメだと。瀬戸内海だ」と。よく言うなと思ったんですよ。ポニョ(「崖の上のポニョ」)まで瀬戸内海は嫌いだと言っていたんですよ。その人がですよ(笑)。僕が寒いところを言ったから、あったかいところを持ってきたんですよ。

半谷:もともと「マーニー」はイギリスの児童文学ですよね。鈴木さんも大好きな作品だったんですか。

鈴木:大好きだったんです。映画化しにくいのは分かっていたんですけど、2人ヒロインが出てくるからマロ(米林宏昌監督)ならなんとかするかと。

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