そう話す倉科さんの額には脂汗がじっとりとにじんでいるのがわかりました。

 私は倉科さんに熱いお茶をすすめながら、次のように説明しました。

●焦らず、冷静に 相続するかしないかを判断しよう

 まず、相続には、積極財産というプラスの資産と消極財産というマイナスの資産があって、借金でも消極財産という財産になることをお話ししました。そして、相続人には相続をするか否かの選択権があることを説明しました。

 相続人が相続をすると意思表示することを「相続の承認」といいますが、この相続の承認には単純承認と限定承認があります。限定承認というのは「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈等を弁済すべきことを留保の上」で、相続の承認をすることです。そして、相続をまったくしないことを相続放棄といいます。

 お話では、お父様が亡くなって約1ヵ月です。まず、その債務が事実かどうかを確認して、事実ならその返済可能性も検討した上で、家庭裁判所に相続放棄もしくは限定承認の手続きをされたらどうかと提案しました。

 相続放棄は、相続の開始があったことを知ったときから原則3ヵ月以内に可能な手続きです。ただし、一度手続きをすると、初めから相続人でなかったことになるので、たとえあとで積極財産が出てきても相続はできません。

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