「総合的に考えて、相続放棄もしくは限定承認をするのであれば、私が信頼するNPO“法人後見パプリカ”の仲間の弁護士を紹介しますよ」と付け加えました。

 その説明を聞いて、お父様の借金をすべて払わなければならないと思っていた倉科さんの表情がぱっと明るくなり、「思い切って相談に来てよかったです」と軽い足取りで帰っていかれました。

 後日、倉科さんから電話がありました。

「あれから金融機関と話をしました。父の借金は事実でしたが、親父が死んだことは知らなかったようです。どうやら老朽化した家のリフォームをしようとして、不動産を担保に300万円ほど借りたようです。でも、リフォームをした形跡がないので、利息は仕方ありませんが、そのお金は使わずに実家の通帳にあるかもしれません。ちょうど実家の売却を考えていたので、よく調べてから、相続の承認をするか相続放棄をするかを決めたいと思います」

 相続手続きのお手伝いをしていつも思うのは、「決して焦ってはならない」ということです。まずはエビデンスを集めることが大事です。事実関係を確認し、財産総額を余すところなく把握する。その上で相続するのか放棄するのか、専門家も交えて正しい判断を行うことです。

 でも、もし遺言が1枚あれば、お父様の想いが倉科さんに伝わったのではないでしょうか。