このような空気は、旧日本軍の敗北だけでなく、戦後多くの大企業のビジネス不祥事でも指摘されています。いまだに私たち日本人は、悪しき空気に騙され続けているのです。

●悪しき空気をつくる3つの要因と、正しい方向転換をはかる4つの要素

 悪しき空気が醸成される要因には、「人の問題(人事制度)」、組織全体で適用されている「評価基準の問題」などが指摘されています。しかし、建設が進んでしまった豊洲新市場では、「サンクコスト」のジレンマも今後急速に問題視されていくことになるでしょう(すでに移転延期費用については、メディアで指摘され始めています)。

 拙著『「超」入門失敗の本質』では、過ちを認めるプロジェクトの正しい方向転換を妨げる4つの要素を列挙しています。

(1)多くの犠牲を払ったプロジェクトという現実(サンクコスト)
(2)未解決の心理的苦しさから安易に逃げようとする意識
(3)建設的な議論を封じる誤った人事評価制度
(4)「こうであって欲しい」という幻想を共有すること

 サンクコスト(Sunk Cost)は、日本語では埋没費用といわれます。すでに投下してしまい、回収が不可能になった費用のことを差します。プロジェクトを途中まで進めて、それを万一中止したときには、それまでの費用は回収することができなくなります。

 一方で、サンクコストを意識することでさらに大きな失敗を生み出す例も多いものです。典型的な事例は、1960年代終わりに計画された超音速旅客機のコンコルドです。開発費用が当初見込みを大幅に超過することが、プロジェクトの実施後に判明し、さらに大型旅客機に需要がシフトしたことで、「計画よりも売れないことがほぼ確定」してしまいます。

 このようなマイナスが途中で判明したにもかかわらず、計画は継続されました。それはサンクコストを惜しいと考えてしまったからです。

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