●小池都知事が指摘した「空気の影響力」

 一連の問題点にメスをいれた小池新知事は、座右の書として『失敗の本質』を挙げています。書籍『失敗の本質』は1984年に出版され、日本的組織論の名著として現代まで読み継がれ、累計で70万部を突破するロングセラーとなっています。

 小池氏は記者会見で「流れや空気のなかで進んで」と発言しています。なんとなく、そちらの結論(盛り土をしない)に引っ張られていった状況を表現しているのでしょう。

 一般に、私たちが「空気」という言葉を使うとき、何らかの形で拘束・歯止めをかけられた状態を指すことが多いようです。「あの場の空気ではとても反論できなかった」など。今回の問題に限らず、「空気」で物事がゆがめられていくことに、私たち日本人は長年うんざりしているのも正直なところではないでしょうか。

 有名な山本七平氏の著作に、『「空気」の研究』(初版1977年)という書があります。山本氏は多くの日本人論の著作を残していますが、日本が一面焼け野原となった太平洋戦争も「空気の支配」によって引き起こされたとしています。

「それは非常に強固でほぼ絶対的な支配力をもつ「判断の基準」であり、それに抵抗する者を異端として、『抗空気罪』で社会的に葬るほどの力を持つ超能力であることは明らかである」(『「空気」の研究』より)

「戦艦大和の出撃などは“空気”決定のほんの一例にすぎず、太平洋戦争そのものが、否、その前の日華事変の発端と対処の仕方が、すべて“空気”決定なのである。だが公害問題への対処、日中国交回復時の現象などを見ていくと、“空気”決定は、これからもわれわれを拘束しつづけ、全く同じ運命にわれわれを追い込むかもしれぬ」(同前)

 日本の敗戦は1945年であり、すでに71年前のはるか昔の出来事です。にもかかわらず、現在も「日本人と空気」の問題は未解決であり、豊洲問題に限らずいろいろな社会問題で、失敗を生んだ空気がいまだ注目され、様々な議論・解説がされているのです。

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