●「空気」が蔓延した旧日本軍の「失敗の本質」との共通点

「空気」が生み出されると、一体何が起こり始めるか。責任の所在は段階的に見えなくなり、「なんとなく」一つの流れが生み出されていく。やがて「ここでは問題の本質を検討しない」という暗黙の了解が作られていくのです。

 旧日本軍でよく引き合いに出される、インパール作戦という失敗があります。ビルマからインド北部に侵攻する作戦でしたが、計画段階で武器食糧の補給が不可能という指摘がありながら無謀にも実行されました(結果、大惨敗で防衛線が崩壊した)。

 成り立たない作戦のため参謀を含めた多くの部下が止めるも無視されました。上司の河辺方面軍司令官が、作戦の提唱者である牟田口司令官(第十五軍)の努力を見てこの作戦を支援したために、ついに決行されました。

「第十五軍の薄井補給参謀が補給問題にとても責任が持てないと答えたのに対して、牟田口司令官が立ち上がって「なあに、心配はいらん、敵に遭遇したら銃口を空にむけて三発打つと、敵は降伏する約束になっとる」と自信ありげに述べたという」(『失敗の本質』より)

 つまり、武器弾薬・食糧の問題を真剣に検討せずに、「もう決定した作戦だから」と実行されたのです。作戦遂行の前提条件を、空気で押し切って無視している組織の姿が71年前にもあるのです。

【「空気が醸成される」悪影響の構造】
「ここでは補給困難を検討しない」
※前提条件の必要性を、あえて検討することを放棄していることに注目

 組織の誰かが「ここではそれを検討しない」、という意図を進めると、それに迎合する人たちのグループが形成されるようになります。それは、組織内で利害を同じくする側の場合もあれば、迎合することで得をする立場に引き上げられた人の場合もあります。初期段階では、この空気は冷静な現実をぶつけることで、崩すことも可能です。しかし、「空気に迎合する人間」が増えると、今度は同調圧力が高まります。

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