「いやあー、初めてのフェスですよ。フェスヴァージン。この期に及んで失うものがあるなんて」
曲間のMCで、5万人がどっとわく。こうなると完全にユーミンのペースだ。
「平成最後の夏フェスにすべり込んで、今日は親子で来てくれているって人も、いると思います。平成はね、CDが売れて、そしてものすごく売れて……、そして売れなくなった時代。平成になったとたん、自分で言うのもナンですけれど、私がメガヒットの火ぶたを切りました。それで、その後、いろんな人が飛行距離を伸ばしていったので、私はライト兄弟みたいな存在かな。平成の始まりごろは、ほんと、ここにいるたくさんの人の、お父さん、お母さんが恋愛していた時期。私も音楽で、すごくお手伝いをしました。だからここに存在しているという人もいっぱいいると思うよね。いいことできたと思っています」
10代、20代のオーディエンスに、ユーミンはウイットに富んだMCで語りかけた。
ユーミンの持ち時間は約50分。2曲目以降はフェスのセオリー通り、代表曲をずらりと用意した。「Hello, my friend」「守ってあげたい」「やさしさに包まれたなら」「ひこうき雲」「真夏の夜の夢」「春よ、来い」「卒業写真」……。イントロが鳴る度に聴衆がどっと沸く。
中盤には、シングルでもなく、ドラマの主題歌でもない、でもファンに愛され続けている名曲も歌った。「夕涼み」だ。濡れた髪、灼けたうなじ……。夏の夕暮れの風景が目に浮かぶ、失った恋を歌う切ないバラードだ。導入部、松任谷が奏でるローズピアノはきらめく波光のようだった。間奏部、もう1人のキーボード奏者、武部聡志が奏でるシンセサイザーは揺らめく陽炎のようだった。
「有名な曲以外にも、由実さんにはいい曲がいくつもある。その中の1つが『夕涼み』です。せっかく集まってくれた皆さんに、夏の思い出をつくって帰ってほしかった」(松任谷)
このROCK IN JAPANの余韻もさめやまぬ9月22日、「Ghana Presents 松任谷由実 TIME MACHINE TOUR ~Traveling through 45 years~」がスタートする。ユーミンの46年間のキャリアで行ってきたコンサートの名場面を再現しつつ、新しい物語へと展開させるツアーだ。そこで2人に、思い出深いツアーを訊ねてみた。
松任谷があげたのは、アルバム『天国のドア』と『THE DANCING SUN』のツアー。そして3度にわたって行われたシャングリラの1回目だという。
「ピンク・フロイドやブルース・スプリングスティーンの照明を手掛けるマーク・ブリックマンに依頼したのが1990年の『天国のドア』のツアー。彼は曲の解釈が抜群でした。彼の照明で由実さんの曲が鳴ると、視覚的にも完全に由実さんの世界になった。あのステージは、世の中のすべての人に見せたいと思いました」(松任谷)
ユーミンがあげたのは1987年からの『ダイアモンドダストが消えぬまに』のツアー。
「レコードジャケットをステージに再現しました。あのアルバムは電子音楽、ジャン=ミッシェル・ジャールやミッシェル・ポルナレフのようなエレクトロをやっています。1980年代に。表現法は違うかもしれないけれど、源泉はかなり近い。その世界を音だけでなく、視覚で表現できたのがうれしかった。とても思い入れのあるヴィジュアルでした」
今回のツアーでも『天国のドア』や『ダイアモンドダストが消えぬまに』の世界が観られるのか――。楽しみだ。