金足農・吉田輝星 (c)朝日新聞社
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 きょう準決勝を迎える第100回記念の全国高校野球選手権。ここまでの試合を振り返ってみると、最大のサプライズは金足農(秋田)の大躍進だろう。3回戦では2点を追う8回裏に6番打者の高橋佑輔が逆転スリーランをバックスクリーンへ叩き込んで横浜(南神奈川)を破り、準々決勝の近江(滋賀)戦では、1点差の9回裏に乾坤一擲がツーランスクイズを決めて、逆転サヨナラ勝ちを収めた。

 そして、準決勝進出の最大の立役者はエースの吉田輝星である。大会前からナンバーワン投手の呼び声が高かったが、ここまでの4試合全てを一人で投げ抜き、全試合で二桁奪三振をマークするなどその評判に違わぬピッチングを見せている。完成度の高いフォーム、コンスタントに140キロ台中盤をマークするスピード、多彩な変化球、終盤でも球威の落ちないスタミナ、巧みな牽制とフィールディングなど長所は多岐にわたるが、中でも特筆すべきなのは勝負どころでギアを上げられる点だ。2回戦の大垣日大(岐阜)戦では8回表に味方が勝ち越した後に三者連続で見逃し三振、横浜戦では逆転スリーランの後の最終回に三者連続空振り三振をマークしている。また、近江戦でも9回表にピンチを招いたものの、最後の打者から空振り三振を奪い、逆転サヨナラの呼び水になっている。甲子園という大舞台で全国の強豪を相手にここまでのピッチングを繰り返せるスター性は希少である。

 心配なのは、とにかくその疲労だ。秋田大会の5試合も43回全て(準々決勝の秋田商戦は7回コールド)を吉田一人で投げ抜いており、甲子園では1回戦から疲れが随所に見られた。吉田自身も近江戦の後には、朝から股関節にかなりの痛みがあったとコメントしている。18日の準々決勝から一日休養日があったことはプラス材料だが、これまでの蓄積疲労はかなりのものだろう。準決勝で対戦する日大三は、準々決勝の下関国際(山口)戦では5安打、3点に終わったが、その前の3試合は全て二桁安打をマークしており、強力打線が持ち味のチームだ。吉田はここまで立ち上がりに苦しむことが多いだけに、パンチ力のあるトップバッターの金子凌、好調をキープしている木代成の1、2番を初回にしっかり抑えることがまず重要になる。金足農打線と日大三投手陣の力関係を考えると、大量援護は期待しづらいが、終盤までロースコアの接戦に持ち込むことができれば、甲子園の大観衆が金足農の応援に回ることが予想される。強豪校を連破した経験が金足農ナインの自信にもなっており、普段以上のプレーを見せていることも心強い。

 ただ、吉田の将来、そして本気で優勝を狙うのであれば、準決勝では思い切って違う投手で序盤を凌ぎ、終盤の勝負どころだけを吉田に任せるというのが最善の方法ではないだろうか。準々決勝では、同じく地方大会から一人の投手で勝ち進んできた済美(愛媛)が、背番号5の池内優一を先発に起用したことがはまり、報徳学園(東兵庫)に見事に競り勝っている。ここまでの起用法と吉田の発言を見ていると、その可能性は限りなく小さいが、吉田本人、起用する監督の“英断”に期待したい。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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