大学時代を除けば、ずっと同居してくれている娘。でも、娘の結婚を望まない親はいないはず。親に結婚を勧められたりはしなかったのだろうか。
「もちろん、20~30代前半のころは『お見合いしてみたら』と親に勧められました。でも、30代後半になったら、『この娘は嫁にはいかないのかなあ』と、結婚のことは言わなくなりました」
さち子さんはお見合いを一方的に断っていたわけではなく、写真を見たり、お見合いもしたという。だけど、どうしても結婚には気持ちが向かなかった。
「20~30代のころは、創作活動に気持ちが行っていて、結婚して、仕事や家事に時間を取られて、書く時間がなくなるくらいなら、迷いなく“結婚しない”という選択だったんです。自分のペースで創作活動もしたいし、ましてや親や誰かに促されて結婚をする、ということは考えられなかったんです」
■消化不良で終わった人生初めての恋愛
「私は恋愛や結婚には臆病なところがありました。それは、学生時代の恋愛経験が影響していると思います」
さち子さんには今でも忘れられない悲しい恋愛の思い出がある。学生時代に初めて本気で男性を好きになった。相手の男性もさち子さんの気持ちに気づき、その気持ちを大切にしてくれていた。そんな恋が始まったばかりのころ、彼が実家の都合で家業を継がなくてはならなくなり、突然故郷に帰ることになった。別れの言葉もそこそこに、大好きだった彼が目の前からいなくなってしまったのだ。
「完全に消化不良の恋でした。学生の私にはどうすることもできない。ただただ泣いているだけでした。大学を卒業して約30年。きちんと恋愛ができなかったのは、この恋がつら過ぎたからだったかもしれません。ちょっと尾を引き過ぎましたけれど(苦笑)」
■結婚の決め手は“喜びを分かち合える”ということ
そんな恋愛に臆病なさち子さんが、「この人と結婚するかも」と思った決め手は何だったのだろう。
「書いたものや写真が入賞して、その喜びを分かち合えたことでしょうか。これまでも、両親が喜んでくれたりもしてくれましたが、いまひとつよくわかっていない、というのが正直なところで(苦笑)。でも、例えば彼は、撮影のときは運転手になって、私がどういう状況で写真を撮っているのかをわかってくれています。創作の苦労をともにしてくれているというか。だから、一緒になって喜んでくれる。それがとてもうれしかったんです」
今でもひとりは好き、というさち子さんが、“喜びを分かち合えるから”という理由が結婚の決め手になったのなら、それは大きな心境の変化ではないだろうか。
「ひと言で言うなら、年を取ったのかなあ」
知り合って4年で交際が始まり、交際期間3年。さち子さんは51歳になっていた。(取材・文/時政美由紀)
時政美由紀(ときまさみゆき)
(株)マッチボックス代表。出版社勤務後、フリー編集者に。暮らし、食、健康などの実用書の企画、編集を多数手がけている