私はたまたま運がよかったのですが、ひきこもり当事者で婚活した人からは、たいへんだったという話を聞いています。そもそも自己肯定感が低いのに、働けないという自分をさらして男性から「査定」されるわけですからね。みんな「結婚しなければこの先の人生は」と生存を賭けて、婚活をしていました。
――サキさんが、いまでも自分を「ひきこもり主婦」だと思うのは、なぜでしょうか?
よく誤解されていますが、ひきこもりは経済的な問題ではないんです。「働けた」とか「結婚できた」とか、そんなことで本物の生きづらさはなくなりません。
私が生きづらかったのは、母が私の幸せのために生きていたからです。母は、ようやく生まれた娘を、めいっぱいの愛情で守ろうとしました。私も母の幸せのために生きてしまっていました。でも、それが結果として母も気がつかないうちに、私から生きる楽しさを奪っていました。
苦しんだなかでやっと見つけたのは「誰のために生きているのだろう」という疑問です。母も私も他人のために生きていたから苦しかったんです。私は私のために生きなければ、生きづらさからは抜け出せません。いまは自分のために生きていくための「リハビリ中」です。
リハビリと言っても大げさなことはしていません。体調がいい日は、数少ない気が許せる友人と出会うとか、母が嫌っていたけど本当は好きだったジャニーズの番組を観るとか、そんなことです。
いま、そういうことがようやく楽しめるようになってきました。
――ありがとうございました。
(聞き手・石井志昂)
■サキさん
32歳。ひきこもり歴は5年。高校1年生の5月連休明けに不登校。定時制高校、通信制大学へと進学し28歳で結婚。現在は主婦をするかたわらアルバイトもしている